大谷翔平「二刀流」誕生秘話とその素顔 日本ハム前GMが明かす

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山田正雄(日本ハム前GM・現スカウト顧問)

 日本人選手がパワーヒッター揃いのメジャーで本塁打王を争う日が来るとは、だれも想像しなかったのではないか。しかも投手として9勝をマーク。かのベーブ・ルース以来の二刀流選手として全米から注目されるのが大谷翔平(27=エンゼルス)だ。日本ハム入団時のGMだった山田正雄さん(現スカウト顧問)に、二刀流誕生の経緯や大谷の素顔を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――大谷の活躍は予想できましたか?

 入団したころは巨人にいた高橋由伸のような中距離ヒッターになるだろうと思いました。3割を打ち、足が速く、肩も強い。三拍子そろった中距離ヒッターになるかもしれないと。ましてメジャーで本塁打王を争うなんて……。あんなに打球の飛距離が出るようになるとは思えなかったですね。まさに想像を絶する姿です。

 ――当時のGMとして、高校生だった大谷をどう見ていましたか。

 投手としても打者としても、甲子園とか練習試合とかU18の行われた韓国などで見ました。けれども、まさか投打の二刀流ができるとは夢にも思っていなかった。何しろ前例がありませんから。どちらかに絞らなきゃとは思っていました。

■「口説き文句」ではありません

 ――山田さん自身は打者より投手の方が早く戦力になると考えていたのですよね。

 ええ。ピッチャーの方が早いだろうと。球は速いですし、スライダーがよかったですから。ただ、バッティングも非凡なものがあったので、ピッチャーとしてダメだった場合にはバッターに転向してもかなりの選手になるんじゃないかとは思っていた。投手として何年かやってみて、それでダメなら打者でと。最初から投手と野手の両方、二刀流なんて発想はまったくありませんでした。

 ――それがなぜ、1年目から二刀流になったのでしょう。

(大谷との入団)交渉にあたったとき、栗山監督から聞かれたのです。「山田さん、例えば大谷がいい返事をして、入団が決まったとき、マスコミの人たちにいろいろと聞かれたら、どっちがいいと言えばいいのですか?」と。なので「両方とも素材はいいと思いますよ」と返事をしました。「栗山さんがキャンプで両方やらせてみて、それで現場として判断、結論を出したらいいじゃないですか」とも。「そんなに両方いいというのであれば、そういうことにしましょう」という話で、そこは終わったのです。その後、何日かして入団が決まったとき、栗山さんはマスコミに「両方いいから二刀流でも」みたいな言い方はしていました。

 ――大谷は高校から直接メジャーに行きたいと公言。それでも日本ハムだけが1位指名した。二刀流は彼を入団させるための口説き文句だったのではないですか?

 それは、まったくありません。

 ――本当ですか?

 僕らがより多く見ていたのは打者よりも投手のとき。あくまで素材ですけど、投手としては面白いんじゃないかと。その程度ですから、交渉の過程で二刀流をやってみたらどうかという話はしていません。高校から直接、メジャーに入団した場合の成功例がほとんどなかったので、「このままアメリカに行ったら、過去の例を見ても難しいよ」という話はしました。

両親は「両方やって迷惑がかからないか」と心配を

 ――獲得が決まって、大谷を間近で見た印象を教えてください。

 年明け、鎌ケ谷での自主トレ中に、室内でティー打撃をやったときのことです。首脳陣やスカウトがみな、大谷のティー打撃に仰天した。「山田さん、これ、バッターですよ!」と口をそろえたくらい、素晴らしいティー打撃でした。ヘッドスピードの速さとか体の軸がぶれないこととか。フツーはどこかが始動します。左の腰とか、後ろ足で蹴るとか、膝が動くとか、バットで反動をつけるとか……。なのに、どこから始動しているのかわからない。全部が一度に始動する。スパンと一直線でボールをとらえる。ああいうティー打撃をする選手は見たことがありませんでした。なのでピッチャーがダメになっても、バッターで生きていけるとは思いました。

 ――キャンプから二刀流選手としてスタートしました。

 選手は基本的に現場に任せています。栗山監督に預けている以上、(起用法は)現場で決めてくださいよと。二刀流という選手はかつていなかったわけですから。大谷が二刀流選手としてスタートできたのは、栗山監督のおかげですよ。

 ――二刀流はかつてだれもやったことがありませんでしたし、1人で2人分の仕事をするわけで結果として仕事を奪われる選手もいます。周りの目とか気にならなかったんですかね。

「やってみなければ分からないですけど、周りにピッチャー専門の人がいれば、野手専門の人もいるのに、そんなこと僕が最初からやっていいんですか?」とか、そういうことを言うじゃないですか、フツーは。けれども、何も言わなかったですね。そのとき、僕はもう、あまり深く関わるのはやめようと思ったくらいです(笑い)。

 ――大谷はつまり常識的な考え方をしない選手だと。

 ご両親は心配していましたよ。「そんな両方やって迷惑にならないんですか?」とか、「いじめられたりしませんか?」と。なので僕は、「プロの世界で生きている選手は他人のことなんて考える余裕がありません。自分のことで精いっぱいですから。大谷が両方やろうと、いじめるやつなんていませんよ」と言いました。

■「大谷の考え方は一般的な高卒選手じゃない」

 ――本人は高校からプロに入ったばかりなのに、当たり前のように二刀流をやったと。

 ええ。キャンプから二刀流でやっていたわけですからね。もし、悩みがあったりすれば、そのときは言ってくるだろう、聞いてくるだろうと思っていたのですけど、まったく言ってこない。ですから結構、楽しくやっているのかなと。その辺、神経というか考え方は一般的な高卒選手じゃないですよね。よっぽど自信があったのか……。だけど、自信を持つほど高校時代には活躍していませんからね。プロですから、球が速いだけならいくらでもいますし、「あの外国人なんか僕より速いじゃないですか」とか、バッターにしても「中田さんのスイング、すごいですよ」とかね。そういう疑問が出てくるものだけど、全然、そういうのは……。だから、いまだに、ああいうスタンスは何なのだろうと……。

 ――本人には日本ハムに入団したときから、両方やれる手応えがあったのでしょうか。

 高校時代の清原和博松井秀喜のように甲子園で騒がれるような活躍をしたのであれば、あれぐらい打ったのだからオレだってプロでできるだろうと思うかもしれませんけど。

 ――大谷と話をして印象に残っていることは。

 話をするときはニコニコしていますし、人当たりもいい。本当にかわいい好青年です。ただ、2人きりでしゃべったことがあまりないんですよ。大谷の実家がエースという名前の犬を飼っていて、僕も犬を飼っていたので、「おい、エース、元気か?」と聞くじゃないですか。すると「ハイ」。それで終わっちゃいますから(苦笑い)。

(聞き手=崎尾浩史/日刊ゲンダイ

▽山田正雄(やまだ・まさお)1944年9月6日、東京都出身。明治大学付属明治高校から62年、大毎オリオンズ(現ロッテ)に外野手として入団。投手に転向した経験もある。86年、日本ハムにスカウトとして入団。2007年から14年までGM、現在はスカウト顧問を務める。ダルビッシュ、中田、大谷らのドラフト指名、獲得にかかわった。

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