“疑惑の15歳”ワリエワは個人戦OK CAS“ロシア野放し”裁定にフィギュア界が報復制裁で包囲

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 五輪が無法地帯と化した。

 14日、ドーピング違反が発覚したフィギュアスケート女子のワリエワ(15、ROC=ロシア・オリンピック委員会)の個人戦出場に関して、スポーツ仲裁裁判所(CAS)がゴーサインを出したからだ。

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 ワリエワは昨年12月のロシア選手権時に提出した検体が陽性となり、ロシア反ドーピング機関(RUSADA)が五輪への暫定資格停止処分を下した。が、ワリエワ側の抗議によりアッサリと処分を解除。これを不服とした国際オリンピック委員会(IOC)や国際スケート連盟(ISU)などがCASに提訴していた。

 CASは出場を許可した理由について、現在15歳で満16歳以下のワリエワは世界ドーピング防止規定(WADC)における「被保護者」であることや、五輪期間中の検体は陽性ではなかったことなどを挙げた。ロシアが団体戦で獲得した金メダルの有効性は改めて裁定されるが、これではドーピングをやっても満16歳以下の選手なら無罪放免になるという“判例”を作ったようなものだ。

 CASの裁定には世界中から反発の声が広がっている。米五輪委員会のハーシュランドCEOが「決定に失望した」との声明を発表。ISUも指をくわえて見ているわけではないという。五輪以降の国際大会の出場停止や、五輪、世界選手権出場の年齢制限引き上げなどにより、ロシアへの制裁の動きが活発になると見る向きは少なくない。

■年齢制限を17歳以上に引き上げる案も浮上

 そもそも五輪出場には年齢制限がなく、各競技団体の国際連盟(IF)の判断に委ねられている。フィギュアは2021年の7月1日時点で15歳以上。15歳のワリエワはギリギリセーフで、06年トリノ大会では14歳だった浅田真央が出場できなかった。各競技団体が年齢制限を設けているのは、低年齢選手への過度な身体的負担や精神的重圧を避けることが主な理由だが、特に女子フィギュアは18年平昌大会でザギトワ(ロシア)が15歳で金メダルを獲得するなど、低年齢化が著しい。

 その最たる例がロシア勢だ。ザギトワ以外にも、16年世界選手権(ボストン)で当時16歳だったメドベージェワが優勝。平昌大会後に開催された国際連盟総会では、欧米諸国を中心に年齢制限を17歳以上に引き上げる案が浮上した。

「総会ではイスラエルが適用除外を求めたことなどもあり、現行の制度が継続された。とはいえ、今大会もロシアのシングル男女出場メンバーは6人中5人が10代と若い上に、世界最強を誇る15歳の少女がドーピングにまで手を染めていた。ドーピング汚染を防ぎ、ダーティーなイメージを払拭するため、年齢引き上げによってロシア勢の低年齢化に歯止めをかけようというわけです」(放送関係者)

 米五輪委員会のハーシュランドCEOは「この事件はまだ解決していない」とも述べている。欧米諸国を中心とした「ロシア包囲網」がますます広がりを見せそうだ。

ロシアの組織的ドーピングの背景にトンデモご褒美

 疑惑の15歳が15日からのフィギュアスケート個人戦に出場することになったが、それにしても、ロシアのドーピング違反はなぜなくならないのか。

 ロシアは2014年に国ぐるみの組織的ドーピングが発覚。20年にはCASが不正を認定し、22年12月まで主要な国際大会から排除することを決めた。その一方で過去に違反歴のない選手は個人資格で五輪参加が許可され、昨年の東京五輪と今大会は「ROC」として出場。“執行猶予中”での違反発覚である。

 ワリエワは15歳という年齢もあって恩情措置が取られたが、ドーピング違反が発覚すれば、資格停止処分と獲得したメダルが剥奪される。そのリスクを冒してまで薬物に手を染めるのは、メダルを獲得すれば、母国ロシアでの歓待が待っているからだろう。

 メダルの色に応じて報奨金を授与。金メダルで400万ルーブル(約600万円)、銀で250万ルーブル(約375万円)、銅で170万ルーブル(約255万円)とさほど高額ではない。しかし、その余得がトンデモない。電車、飛行機など日常の移動費はすべてタダ。国からは車と豪奢な住居が支給される。06年のトリノ五輪ではトヨタのレクサス、10年のバンクーバー五輪ではアウディ、14年ソチ五輪ではベンツがメダリストに贈呈された。まだ免許を持っていない選手には、専用ドライバーをつけるという手厚さだ。

 さらに、現役引退後は政界や国の中枢からのオファーも多くあり、生活や地位が保障される。04年アテネ五輪の新体操金メダリスト、アリーナ・カバエワ(38)は現役引退後に6年間、下院議員を務めたのち、ロシア最大メディア「ナショナルメディアグループ」会長に就任。一時はプーチン大統領と再婚間近ともウワサされた。

 オイシイご褒美が盛りだくさん。そりゃ、ドーピングもなくならないわけである。

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