スポーツ文化評論家・玉木正之氏が憂う“勝利至上主義” 「ただの強いだけの阪神なんてオモロない」

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玉木正之(スポーツ文化評論家)

 阪神タイガースが18年ぶりとなる悲願のリーグ優勝を達成。球団史上最速で「アレ」に導いた岡田彰布監督の采配への評価もうなぎ上りだが、虎党は生来のひねくれ者の集まり。素直に喜べないトラキチもいる。13歳の誕生日に長嶋茂雄ファンから虎ファンに「元服」してから58年。タイガースをたたえ、時には愛するがゆえの辛口批判で、熱烈な思いの丈をブツけてきた日本初のスポーツライターもそんなひとりだ。「こんな優勝はタイガースの優勝と違う」とボヤキが止まらないようで──。

  ◇  ◇  ◇

 ──阪神がぶっちぎりで優勝しました。

 強すぎるタイガース野球はオモロない、ハッキリ言うて。そつなく、手堅く、ただの強いチームになってどうするの?

 ──ズバぬけた成績の選手もおらず、誰をMVPに選ぶかも一苦労です。

 もう、岡田監督でいいんじゃないですか。優勝インタビューのボケ方も悪くなかったし。

 ──優勝当日に道頓堀に飛び込んだのは26人。警備が厳戒だったとはいえ、2003年に星野阪神が優勝した際は5000人以上がダイブしました。かつてのフィーバーと比べ、おとなしい印象です。

 今年みたいな勝ち方じゃあ、熱狂できません。タイガースは巨人のような、ただ勝ちゃええチームと違う。「勝ち方」が問題。それこそがタイガースの値打ちです。

あの時の虎は美しかった

  ──確かに。21年ぶりのリーグ優勝、初の日本一に輝いた85年のお祭り野球とは隔世の感があります。「バックスクリーン3連発」は語り草です。

 忘れられない試合が、その年の5月20日の巨人戦です。巨人が二回から六回まで、きれいに1点ずつ取って0-5で迎えたタイガースの七回の攻撃。佐野の満塁ホームランで1点差に迫ると、真弓の2ランが飛び出し、1イニングに一挙6点を奪って大逆転!

 ──昨日のことのように生き生きと語りますね。

 まさに何が起こるか分からない。85年の優勝はただ勝つだけじゃなく、豪快ハチャメチャな勝ち方で熱狂を巻き起こした。フィーバーに目をつけた企業がタイガースマークの入った商品を次々と発売。家電、米、酒、寝具、パンティーまで実に500種を超え、それだけで生活できると言われたほど。実家が電器屋だったので「虎印」のテレビをたくさん仕入れ、私が掛布と川藤のサインをもらい、景品に付けたら飛ぶように売れました。初めて親孝行しましたよ(笑)。

 ──ちょうど西武が広岡監督の管理野球の下で、常勝軍団を築き上げた時期と重なりました。

 管理野球は選手個々の活躍以上に監督のマネジメント能力が注目される。ひたすら勝利を求め、監督が主人公になる野球です。タイガースの爆発は「そんな野球なんか、やめてまえ」という異議申し立てだったと言えます。また、日本全体が高度な管理社会に進む中、破天荒な「アンチ管理」野球がギスギスした世の中に対するアンチテーゼとして共感を呼んだ。長嶋茂雄さんは「時代の要求」と表現しましたが、アナーキーなお祭り空間に皆、酔いしれたのです。

 ──それが列島を揺るがす熱狂を生んだのですね。

 メディアも「個性派時代の幕開け」と浮かれたけど管理強化に向かう社会の大きな趨勢に個は逆らえません。しょせん、時代のあだ花。一発の大花火だったからこそ、あの時の虎は美しかったのです。

 ──大輪の花を咲かせた後はアッという間に暗黒時代に突入しました。

 体制否定のアンチテーゼはいわば破壊行為。破壊に傷はつきもので、虎も大いに傷ついたよね。バースと掛布が残念な形でチームを去り、球団フロントもあんなに2人をイジメんかてよかったのに。責任者出てこーい!

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