「大谷翔平が出現した今は日本プロ野球界の歴史的転換期」取材歴50年のベテランが抱く危機感

公開日: 更新日:

菅谷齊(スポーツライター)

 取材歴50年以上のベテラン記者が上梓した「日本プロ野球の歴史-激動の時代を乗り越えて─」(大修館書店)が、2023年度「ミズノスポーツライター賞」の優秀賞を受賞した。プロ野球の歴史を丹念にひもときながら、歴史の中の野球、社会の中の野球という視点を持って書き上げた410ページ超に及ぶ労作だ。東京プロ野球記者OBクラブ会長も務める筆者に改めて話を聞いた。

 ──本書の執筆のきっかけは?

 2023年は3月のWBCでの日本代表の優勝に始まり、夏の甲子園では107年ぶりに慶応高校が深紅の大優勝旗を手にし、プロ野球では阪神タイガースが38年ぶりに日本一となりました。日本の野球の歴史や伝統について改めて考えさせられたシーズンでした。執筆のもととなった歴史取材のきっかけは私が30歳ごろ、既にスーパースターだった長嶋茂雄さんの誕生日を調べてハッとしたからです。

 ──長嶋さんの誕生日は1936(昭和11)年2月20日ですね。

 その6日後にあの二・二六事件があり、その2カ月後の4月29日に日本のプロ野球は初めての公式戦をスタートさせている。時代の混乱、激動の中で始まり、発展を遂げてきたプロ野球の歴史、社会的背景に改めて思いを馳せるきっかけになりました。

 ──取材記者として、王貞治がハンク・アーロンの世界記録を破った756号や金田正一の400勝、福本豊の1000盗塁、張本勲の3000安打などプロ野球史に残る瞬間を実際に現場で目撃している。今のプロ野球をどう見ていますか。

 今の選手はお行儀が良くプレーがきれい。技術的レベルは間違いなく上がっていますが、迫力という点には欠ける。選手みんなが同じように見える。個性が失われているように感じます。

 ──原因はなんでしょう。

 ひとつは、アマチュア時代から勝つことに力点を置かれた指導をされていることでしょう。教科書通りというか、型にはまった指導です。指導者からすれば、その方が都合がいい。確率的に選手はうまくなるし、チームも勝てる。半面、その弊害として、個性のある選手が生まれにくくなっているのではないか。メディアも同じです。

 ──といいますと。

 50点、60点の平均的な記事が多い。昔は選手の良い悪い、采配の良し悪しを忖度なくはっきり書いた。長嶋、王のONであっても、ミスや凡打を厳しく指摘したものですが、長嶋さんは「そうやって厳しく書くのが君らの商売。で、きょうはなんて書くんだ?」と楽しみにしていたくらい。選手の方もおおらかで懐が深かったですね。選手とメディアが刺激し合う関係にありました。

■SNSで加速する没個性

 ──没個性で言えば、SNSの影響も大きい。

 メディアからだけではなく、一般の人にも監視されているような時代ですからね。プロ野球は客商売ですから、社会通念に反することをすれば処分されてしかるべき。ですが、今は不倫などでも、処分以上の傷を負う。ネットの書き込みなどで袋叩きに遭いますからね。他者の目を気にし、小さくまとまってしまうということはあるでしょう。

 ──現ソフトバンク球団会長の王貞治さんも現役時代はヤンチャだった。

 一本足打法を極めた努力の人ですが、グラウンドを離れれば決して真面目一辺倒ではなかった。門限破りもやった。王さんのことで言えば、印象的な出来事があります。江川卓が例の「空白の一日」で巨人に入団した際のことです。結局、入団が認められず、ドラフトでは阪神が指名。超法規的措置として、巨人が当時のエースの小林繁を阪神に放出して、江川とのトレードが成立した。巨人内には江川に対する複雑な思いがあり、迎える春のキャンプで江川との同宿を嫌がる選手が続出した。江川との同宿に否定的なニュアンスで応えた王さんについても各メディアが報道し、大騒ぎになりました。巨人が宮崎に出発した1月31日のことで、午前中に小林が羽田空港からフロントに都内のホテルに連れて行かれ、そこで阪神トレードの説得をしています。同室拒否の取材はその日の午後、必勝祈願した神社でのことでした。翌日以降、共同通信にも巨人の広報担当が本社まで抗議の電話をしてきたほどです。私は2月中旬に宮崎キャンプ取材に入り、その夜に巨人の宿舎で王さんと会いました。王さんは「記者諸君にとっていい勉強になったと思いますよ」と言い、抗議のようなものは一切なかったし、同室拒否の報道について否定はしませんでした。記者の仕事を理解していましたね。むしろ理不尽な結果に強い違和感を持ったように私は感じ取りました。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 野球のアクセスランキング

  1. 1

    清原和博氏が巨人主催イベントに出演決定も…盟友・桑田真澄は球団と冷戦突入で「KK復活」は幻に

  2. 2

    巨人今オフ大補強の本命はソフトB有原航平 オーナー「先発、外野手、クリーンアップ打てる外野手」発言の裏で虎視眈々

  3. 3

    巨人・岡本和真を直撃「メジャー挑戦組が“辞退”する中、侍J強化試合になぜ出場?」

  4. 4

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  5. 5

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  1. 6

    ドジャース大谷翔平が目指すは「来季60本15勝」…オフの肉体改造へスタジアム施設をフル活用

  2. 7

    佐々木朗希がドジャース狙うCY賞左腕スクーバルの「交換要員」になる可能性…1年で見切りつけられそうな裏側

  3. 8

    “文春砲”で不倫バレ柳裕也の中日残留に飛び交う憶測…巨人はソフトB有原まで逃しFA戦線いきなり2敗

  4. 9

    巨人が来秋ドラ1指名?明治神宮大会で躍動の青学大154キロ右腕・鈴木泰成は“4年越しの恋人”

  5. 10

    周囲が気を揉むドジャース山本由伸の結婚適齢期…今季大活躍でスポンサーからの注目度も急騰

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  2. 2

    長嶋一茂は“バカ息子落書き騒動”を自虐ネタに解禁も…江角マキコはいま何を? 第一線復帰は?

  3. 3

    トリプル安で評価一変「サナエノリスク」に…為替への口先介入も一時しのぎ、“日本売り”は止まらない

  4. 4

    "お騒がせ元女優"江角マキコさんが長女とTikTokに登場 20歳のタイミングは芸能界デビューの布石か

  5. 5

    【独自】江角マキコが名門校との"ドロ沼訴訟"に勝訴していた!「『江角は悪』の印象操作を感じた」と本人激白

  1. 6

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  2. 7

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 8

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  4. 9

    27年度前期朝ドラ「巡るスワン」ヒロインに森田望智 役作りで腋毛を生やし…体当たりの演技の評判と恋の噂

  5. 10

    今田美桜が"あんぱん疲れ"で目黒蓮の二の舞いになる懸念…超過酷な朝ドラヒロインのスケジュール