ブチ切れた球審がまさかの“逆襲”、長嶋茂雄監督のあんなに慌てふためいた顔は見たことがない
「なに? なに? なに?」
と私に近寄ってきたからである。
「何って、何かありました? 何もありませんよ」
私がそういうと「あっ、そう」と言って長嶋監督はベンチに引き揚げた。どうも巨人ベンチがざわざわしたので、判定で何かトラブルがあった、と早とちりしたようである。
愛すべき人柄がうかがえるが、その長嶋監督が審判に逆襲されたことがある。最初の監督(1975年から80年)をしていたときだ。ある試合で巨人が攻撃のとき、際どい球が「ストライク!」とコールされた。私は一塁の塁審だったが、間髪をいれず巨人ベンチから、
「出目マツ、しっかり見ろ!」
とヤジが飛んだ。
「出目マツ」と言われたのはベテラン審判の松橋(慶季)さん。大きな目をしていた。松橋さんにそんなヤジを飛ばせるのは長嶋監督しかいない。
「タイム!」
よほど頭に来たのか、こう言って試合を止めると、松橋さんが巨人ベンチに向かって歩いてきた。そして巨人ベンチをのぞき込むようにしてひと言、こう言い放った。