著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ゲームセットにはまだ早い」須賀しのぶ著

公開日: 更新日:

 いやあ、すごいぞ。最近これだけ面白い野球小説も珍しい。とにかく涙が止まらないのだ。感動丸かじりの野球小説だ。

 舞台は、アマチュア野球。プロの世界にNPBと独立リーグがあるように、アマチュアの世界には、企業チームとクラブチームがある。ここで描かれるのは後者だ。会社の支援がある社会人野球と違い、クラブチームはそういう支援もないので、選手はそれぞれの職場で働きながら試合をしなければならない。

 ここで主役となる新潟の三香田ヴィクトリーは、町おこしの一環としてつくられたチームなので、地元企業の応援がある。専用のグラウンドもある。クラブチームとしてはまだ恵まれているほうだ。それでも、職場で働く時間がきたらグラウンドを離れなければならない。

 嘘みたいな話だが、三香田ヴィクトリーはそういう局面に遭遇する。それが都市対抗第2次予選の準決勝戦だ。

 実はクラブチームでも第1次予選、第2次予選を勝ち上がれば、都市対抗に出場できるのである。企業チームはやっぱり強いから、クラブチームが第2次予選を勝ち上がるのは容易なことではないが、三香田ヴィクトリーはついにそこまでたどり着くのだ。

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