「KEEP ON DREAMING 戸田奈津子」戸田奈津子、金子裕子著

公開日: 更新日:

就職はどうするの?」という友人の問いに、津田塾大学3年生の戸田奈津子はこう答えた。「字幕の翻訳をやろうかしら」。いつしか自分の中で育っていた「夢」だった。

 座して待っていても夢はかなわない。奈津子は当時の字幕翻訳の第一人者、清水俊二に思い切って手紙を書いた。時間を割いて会ってくれた業界の先駆者はこう言った。

「困ったねぇ。難しい世界だから」

 その難しい世界で、奈津子はどのようにして字幕翻訳者になったのか。長年親交のある映画ライターの問いに答えて映画一筋の半生をざっくばらんに語った。

 奈津子は父を覚えていない。生まれてほどなくして、日華事変で父が戦死。22歳で未亡人になった母は、戦後、東京・世田谷の実家に戻り、焼け出された兄妹たちと大家族で暮らした。奈津子は叔父や叔母に連れられて、よく洋画を見に行った。「チャップリンの黄金狂時代」「荒野の決闘」「美女と野獣」……。多感な少女の前に、めくるめく世界が広がった。

 映画への思いは大人になっても変わらなかった。ひとまず生命保険会社の社長秘書になったが、退屈で続かなかった。翻訳の仕事で何とか生計を立てるようになったが、字幕への夢は捨てていなかった。清水に教えを請いながら、少しずつ経験を積んだ。そして、「地獄の黙示録」の字幕を任され、プロの字幕屋として業界のお墨付きを得る。そのとき、この道を志して20年が過ぎていた。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    萩原健一(6)美人で細身、しかもボイン…いしだあゆみにはショーケンが好む必須条件が揃っていた

  2. 2

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…

  3. 3

    僕に激昂した闘将・星野監督はトレーナー室のドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきて…

  4. 4

    迷走するワークマン…プロ向けに回帰も業界では地位低下、業績回復には厳しい道のり

  5. 5

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  1. 6

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 7

    「高額療養費制度」見直しに新たな火種…“がん・難病増税”に等しいのに、国家公務員は「負担上限」据え置きの可能性

  3. 8

    「(来季の去就は)マコト以外は全員白紙や!」星野監督が全員の前で放った言葉を意気に感じた

  4. 9

    フジテレビに「女優を預けられない」大手プロが出演拒否…中居正広の女性トラブルで“蜜月関係”終わりの動き

  5. 10

    八潮市の道路陥没事故で爆笑動画…“炎上連発”中町綾を起用したCanCamに《格が落ちた》SNS嘆き