「賢者の愛」山田詠美著

公開日: 更新日:

 真由子は、周りの大人たちに慈しまれ、幸福な少女時代を送っていた。隣に、2つ年下の百合が引っ越してくるまでは。

 真由子の父は有能な編集者で、母は医者。離れに間借りしている小説家志望の青年、諒一を「リョウ兄さま」と呼んで慕っていた。百合は成り金だが愛のない家庭から逃れるように、真由子の世界に入り込み、2人は「親友」になる。

 真由子が21歳になったとき、百合は諒一の子を妊娠したことを告白し、真由子に言う。「リョウ兄さまを私にちょうだい」。真由子は、百合への復讐を決意する。

 山田詠美の最新長編は、谷崎潤一郎の「痴人の愛」の向こうを張った愛憎劇。百合が産んだ男の子は真由子の助言で直巳(ナオミ)と名づけられる。「このナオミは、痴人のものではなく、賢者のものになる」。真由子は直巳を理想の男に育て上げるべく、幼いうちから丹念に水をやり続ける。年の離れた2人の関係は先生と教え子のようであり、共犯者のようでもあった。「痴人の愛」では、年上の男が美少女ナオミを自分好みの女に仕立てあげようとして、怪物をつくり出してしまった。さて、「賢者」真由子の怪しく危うい復讐劇を待ち受けている結末は?

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?