慰問雑誌を飾った美貌のアイドルたち

公開日: 更新日:

 可憐にほほ笑む女性アイドルのグラビアページをめくり、熱狂する若者たち。そんな姿は、今も昔も変わらない。たとえそれが、明日をも知れない戦場であっても。

 押田信子著「兵士のアイドル」(旬報社 2200円+税)では、これまで日の目を見ることのなかった、前線の兵士たちの心を癒やした慰問雑誌について、多数の写真と共にその内容や紙面を飾った美女たちを徹底研究している。

 日中戦争下の昭和13年に誕生し、戦地の兵士と国内の傷病兵に1冊ずつ配布されていた「戦線文庫」。製作費には国民の慰問金があてられ、軍部が監修し一括して買い上げていたためか、戦局が悪化しても毎月途切れることなく発行された。

 兵士の慰安が目的のため、軍事的・政治的な記事は意識的に抑えられ、言論や表現が抑圧されていた時代とは思えないほどの娯楽に満ちていた。中でも注目すべきが、エンターテインメント界のアイドル情報が豊富に載せられていたことだ。

 表紙はモダンな美人画で、グラビアには原節子や高峰三枝子、田中絹代らがほほ笑む。そこには、「無事ご凱旋くださいます様に。私お迎へに参ります」「勇士の皆さまがたと国を同じくする私たちの幸福を感じます」など、兵士たちを鼓舞する、アイドルたちからの恋文のような慰問文も掲載された。

 戦地の港に船が着き、日本からの荷物に慰問雑誌を見つけると、兵士たちからは「ウォー!」という歓声が沸き上がった。出版社には戦地からファンレターも届いたという。アイドルたちも兵士の願いに応えて戦地慰問に訪れ、その様子も掲載された。故国を離れて戦う若者にとって、慰問雑誌は心のよりどころだったのだ。

 一方で慰問雑誌は、軍のプロパガンダとして、国民を戦争に動員する装置として機能していたことも見て取れる。日本が“戦争ができる国”になった今、違った角度から戦争の無意味さを考える資料としても役立ちそうだ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    梅宮アンナ「10日婚」短期間で"また"深い関係に…「だから騙される」父・辰夫さんが語っていた恋愛癖

  2. 2

    「時代と寝た男」加納典明(19) 神話レベルの女性遍歴、「機関銃の弾のように女性が飛んできて抱きつかれた」

  3. 3

    砂川リチャード抱える巨人のジレンマ…“どうしても”の出血トレードが首絞める

  4. 4

    日テレ退職の豊田順子アナが定年&再雇用をスルーした事情…ベテラン局アナ「セカンドキャリア」の明と暗

  5. 5

    “バカ息子”落書き騒動から続く江角マキコのお騒がせ遍歴…今度は息子の母校と訴訟沙汰

  1. 6

    中学受験で慶応普通部に合格した「マドラス」御曹司・岩田剛典がパフォーマーの道に進むまで

  2. 7

    吉沢亮「国宝」が絶好調! “泥酔トラブル”も納得な唯一無二の熱演にやまぬ絶賛

  3. 8

    阿部巨人“貧打の元凶”坂本勇人の起用に執着しているウラ事情…11日は見せ場なしの4タコ、打率.153

  4. 9

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  5. 10

    フジ・メディアHD株主総会間近…328億円赤字でも「まだマシ」と思える系列ローカル局の“干上がり”ぶり