「神奈備」馳星周氏

公開日: 更新日:

 登場人物は、実質このふたり。悪天候の山へ深く進むにつれ、ふたりの心理背景や人生観も深く濃密にさらけ出されていく。

「下界の余計なものを入れたくなかった。登山で疲れてくると、自分の中の夾雑物がなくなっていくんですよね。ただ、こすっからい計算はなくて、実は何も考えずに書いていたりもします。後で読むと、『俺、こんなこと書いたっけ?』と思うこともよくあります(笑い)」

 潤と孝は、現代社会の切実感を切り取ったような存在でもある。毒親と貧困、独身中年男の孤独感と惑い。人物にリアリティーがあるだけではない。予測不能な自然災害に対する憂いと教訓も、今の時代につながるものがある。

「東日本大震災も、御嶽山噴火も、熊本大地震も、人間は忘れてしまう。福島の原発事故だって終わっていないのに。しかも現政権は自然災害だけでなく、戦争のことすら忘れて、なかったことにしようとしている。都合よく忘れて、すぐにバレる嘘をつくのは、現政権の得意技だけどね」

 想像を絶する結末は読み手を裏切るというべきか、あるいは心の底に波紋を広げるというべきか。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾