「神奈備」馳星周氏

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大自然に翻弄される極限の人間心理

 山岳信仰の拠点である霊山・御嶽を舞台に、自然界の驚異と人間の極限の心理を描いた小説が誕生した。「神奈備」とは、神が棲まう山、の意味だ。

「もともとは、神様を求めて山に登る人と、神様を否定して山に登る人が、荒れ狂う天候の山をさまようという話を書きたいと思って。実は6年前から登山を始めたんです。下界にいたら絶対見られない神秘的な景色や、森林限界を越えて、山の稜線に出たときの解放感にハマってね。ひと月に4回登るときもあるほど」

 夜のネオンと紫煙が最も似合う作家のイメージだが、今作は大自然の猛威に翻弄される人間の弱さに肉薄している。

 主人公は17歳の芹沢潤。口を開けば罵詈雑言、虐待と搾取を繰り返す毒母・恭子との生活に絶望している。「神様、どうしてぼくは生まれてきたのですか」。拷問のような日々に、潤は自分の存在意義を問い続けてきた。その答えを求め、神の棲む山・御嶽を目指す。

 一方、御嶽の強力(御嶽信仰の信者の登山を援助する職)である松本孝は、低気圧が近づく中、山に入った潤を救出するため、単独で向かう。

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