花房観音(作家)悲しき怨念の齎す怪異

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5月×日 世の中は怪談ブームらしい。確かに怪談イベントの盛況さや実話怪談本が売れているという話はよく耳にする。私も怪談は好きだが「ブーム」と言われるようになってから違和感を覚えることが増えた。怪談は「人の死」を扱っているものなのに、その「死」が軽くなっているかのように感じている。もしも身近な人の「死」が無関係な人たちの金儲けの手段のみになったらいたたまれない。実際に自分が時間とお金をかけ調べたものが、何の思い入れもない他者に使われたことが何度かあり、止める権利はないが悲しく虚しかった。

5月×日 それでも怪談というジャンルは好きだから「これぞ」と思った本に出合えると嬉しい。

 実話怪談の書き手の中で地道な調査と取材をつみあげて活動をしている一人が日本ホラー小説大賞受賞作家でもある田辺青蛙だ。彼女の新刊「名城怪談」(エクスナレッジ 2420円)は、歴史研究家の北川央監修のもとに全国の「城」にまつわる怪談を集めた本だ。イラストも充実し各城の所在地や図や築城の経緯などが最初に記してありイメージがわきやすい。この本を読むと、城という「政(まつりごと)の場」を通じてその土地に住んでいた人たちの生きた証が蘇る。怪談は亡き人の営みの記録でもある。

5月×日 黒木あるじの「おしら鬼秘譚」(KADOKAWA 2420円)を読んだ。実話怪談の書き手の第一人者だが、新刊は悲しき怨念の齎す怪異を扱った小説だ。黒木あるじは青森県弘前市に生まれ現在は山形市在住で、ずっと東北に根を下ろし、土地に纏わる怪談を書き続けてきた。彼は以前、「東北は死に近い土地だから」と口にしていた。恐山に即身仏、近年では東日本大震災で多くの人の命が奪われた。彼は「死に近い土地」に住むからこそ、必死で生きている人たちや亡くなった人たちの想いを残そうとしているかのように東北を描き続ける。

 怪談やホラーにかかわらず、私たち書き手は「死」を扱うことの重さを忘れてはいけないと思う。

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