「鬼手 小早川秀秋伝」大塚卓嗣著

公開日: 更新日:

 秀吉の養子として育てられ、豊臣家に身を捧げる使命を背負っていたはずが、関ケ原の戦いで東軍に寝返ったことで、裏切り者のレッテルを貼られてきた小早川秀秋。優柔不断で無能な者として描かれることの多かった秀秋は、本当に愚者だったのか。本書は、秀吉に忠義を果たそうとするあまり、愚者を装ったという新しい小早川秀秋像を描いた歴史小説だ。

 秀吉亡き後、忠誠を尽くすふりをしつつ寝首をかこうと家臣たちが策略を謀るのを感じた秀秋は、秀吉から「秀」の字をもらった者こそが次の日本をつくり上げると信じ、豊臣秀頼を中心に東を徳川秀忠が、西を自身が担うという未来図を描いたという設定が面白い。しかも、その純粋な思いはある人物の思惑に利用されてしまう。

 兄のような宇喜多秀家、律義者の徳川家康、冷酷無比な大谷吉継など、今までにない人物設定となっており、同じ歴史上の出来事が、解釈によって全く見え方が変わることに気づかされる。(光文社 1300円+税)


【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    カーリング女子フォルティウス快進撃の裏にロコ・ソラーレからの恩恵 ミラノ五輪世界最終予選5連勝

  2. 2

    南原清隆「ヒルナンデス」終了報道で心配される“失業危機”…内村光良との不仲説の真相は?

  3. 3

    契約最終年の阿部巨人に大重圧…至上命令のV奪回は「ミスターのために」、松井秀喜監督誕生が既成事実化

  4. 4

    「対外試合禁止期間」に見直しの声があっても、私は気に入っているんです

  5. 5

    高市政権「調整役」不在でお手上げ状態…国会会期末迫るも法案審議グダグダの異例展開

  1. 6

    円満か?反旗か? 巨人オコエ電撃退団の舞台裏

  2. 7

    不慮の事故で四肢が完全麻痺…BARBEE BOYSのKONTAが日刊ゲンダイに語っていた歌、家族、うつ病との闘病

  3. 8

    箱根駅伝3連覇へ私が「手応え十分」と言える理由…青学大駅伝部の走りに期待して下さい!

  4. 9

    「日中戦争」5割弱が賛成 共同通信世論調査に心底、仰天…タガが外れた国の命運

  5. 10

    近藤真彦「合宿所」の思い出&武勇伝披露がブーメラン! 性加害の巣窟だったのに…「いつか話す」もスルー