「夜行」森見登美彦著

公開日: 更新日:

 学生時代に通っていた英会話スクールの仲間5人が「鞍馬の火祭り」を見に行こうと、京都に集まった。実は10年前、6人で出かけた火祭りの夜に、仲間の女性1人が忽然と姿を消した。彼女はまだ、あの夜の中にいるのだろうか。

「有頂天家族」で天狗や化けタヌキが跋扈する世界を描いた作者による連作怪談である。

 失踪した彼女に招かれるように久々に顔を合わせたかつての仲間は、貴船川沿いの宿で、それぞれに自分の旅の思いを語りだす。どの話も、背筋がぞくりとする体験を含んでいた。

 家出した妻を捜して尾道を訪れた中井は、廃屋で妻そっくりの女に会う。男女4人で奥飛騨を旅した武田は、霊能者の不気味な予言に振り回される。津軽、天竜峡、そして鞍馬と、奇怪な旅の話が続く。

 不思議なことに、彼らの話には、すでにこの世の人ではない銅版画家・岸田道生の連作「夜行」が関わっていた。永遠に明けない夜に浮かぶ顔のない女。岸田の連作は、現実世界と百鬼夜行する別世界をつなぐ境界なのだろうか。

 鞍馬の火祭りの夜を舞台に、こちら側の世界と向こう側の世界を行きつ戻りつ。ファンタスティックで静寂に満ちた魔境を旅した気分になる。(小学館 1400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    もしやり直せるなら、入学しない…暴力に翻弄されたPL学園野球部の事実上の廃部状態に思うこと

  2. 2

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  3. 3

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  4. 4

    巨人阿部監督が見切り発車で田中将大に「ローテ当確」出した本当の理由とは???

  5. 5

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  1. 6

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  2. 7

    JLPGA専務理事内定が人知れず“降格”に急転!背景に“不適切発言”疑惑と見え隠れする隠蔽体質

  3. 8

    「俳優座」の精神を反故にした無茶苦茶な日本の文化行政

  4. 9

    (72)寅さんをやり込めた、とっておきの「博さん語録」

  5. 10

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動