安倍首相も読むべきプーチンと付き合う際の留意点が満載

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「プーチンの世界『皇帝』になった工作員」フィオナ・ヒル/クリフォード・G・ガディ著、濱野大道/千葉敏生訳/畔蒜泰助監修 新潮社 2016年12月

 ロシアのプーチン大統領について、日本語で読むことができる最良の書だ。ソ連時代は、KGB(国家保安委員会)で対外インテリジェンスを担当する中堅職員(退役時の階級は中佐)が、1996年にモスクワで大統領府に勤務するようになってから急速に出世の階段を上り、ロシア初代大統領のエリツィンにより後継者に指名され、その後、盤石な権力基盤を構築し、皇帝のような地位を得た過程を詳細に調べ、わかりやすく記述している。もっともプーチンの履歴については公開されていない部分が多い。 ヒルとガディは、〈二〇〇〇年代の大半の時期、プーチンは政治家としてロシアで絶大な権力を誇示してきた。その力は、演出されたパフォーマンスではなく、本書で論じるプーチンの六つのペルソナの組み合わせがもたらしたものだ。私たちはその六つのペルソナを「国家主義者」「歴史家」「サバイバリスト」「アウトサイダー」「自由経済主義者」「ケース・オフィサー(工作員)」と名づけた。〉と強調する。

 6つのペルソナ(個性)があるとの作業仮説に基づいて調査し、分析している。その結果、「プーチンの謎」をかなり解明することに成功している。これからは、この本がプーチンのロシアについて最良の教科書になる。

 プーチンの行動様式にKGB(ソ連国家保安委員会=秘密警察)での経験が与えた影響は大きい。外交においてもケース・オフィサーそのものだ。1対1で個人的人間関係を構築する技法にプーチンは長けている。しかし、それは相手を対等の友人として尊重しているからではない。ロシアの国益にとって操作可能にするためだ。その観点からすれば、私的利益を追求する腐敗政治家は、プーチンにとって利用価値の高い工作対象になる。前ウクライナ大統領のヤヌコーヴィチがその例だ。

〈プーチンから見れば、ヤヌコーヴィチ大統領のあからさまな守銭奴ぶりは、大いに利用できる弱点であり、ロシア側に多大な影響力を与えるものだった。〉

 プーチンと付き合う際の留意点が満載されているこの本を安倍晋三首相にぜひ読んでもらい、北方領土交渉に生かしてもらいたい。★★★(選者・佐藤優)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

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