「本を守ろうとする猫の話」夏川草介著
高校生の夏木林太郎は幼い頃から祖父と2人きりで暮らしてきたが、その祖父を突然失ってしまう。生来ひきこもりがちな林太郎だが、祖父の営む古本屋を手伝いながらその年齢には珍しいほど多くの本を読んでいた。そんなある日、叔母の家に引き取られることになり、店を畳む準備をしていたところへ、突然言葉を話すトラネコが現れ、本を助けるために林太郎の力を借りたいといってきた。
林太郎は面食らいながらも、好きな本のためならとネコと一緒に不思議な本の迷宮へさまよい込んでいく。
登場するのは、おびただしい数の本が人の手に触れることなく巨大なケースに収納されている迷宮、本を効率よく読めるように本を切り刻んで断片化する迷宮、本は内容よりも売れるものこそが正しいとする迷宮……。
いずれも本を愛した祖父から教えられたのとは違う価値観を押しつけてくる迷宮の主たちに対して、林太郎はつたないながらも自らの思いを訴えていく――。
ベストセラー「神様のカルテ」シリーズの著者が、本を取り巻く厳しい現状に対して鋭い批判を放つファンタジー。(小学館 1400円+税)