ハリウッド映画を支えた絵コンテ画家

公開日: 更新日:

 ストーリーボーダー。日本で「絵コンテ」と呼ばれる撮影台本専門の絵描きのことだが、実はこの絵コンテ画家の腕次第で映画の成否も決まってしまう。その裏話を追ったドキュメンタリーが今週末封切りの「ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー」。

 ハロルド・マイケルソンが業界に入ったのは第2次大戦の爆撃兵からの復員後。下積みを経て57年のスペクタクル映画「十戒」では見せ場の多くが彼の絵コンテに基づいたが、あくまで裏方の絵コンテ画家は監督のセシル・B・デミルにも撮影監督にも会わされずじまいだったという。

 転機になったのがヒチコックとの出会い。その後、ハリウッドが急速に斜陽化する中、彼は資料調査のベテランになった妻のリリアンと一緒に、映画の現場を通して古典期ハリウッドの技術的精華を後世に伝える役目を担うことになってゆく。「知りすぎていた男」「ウエスト・サイド物語」「卒業」「チャイナタウン」「フルメタル・ジャケット」……。本作を見るほどに監督ばかりが「作家」じゃないと思う人は多いだろう。

 自閉症の長男をかかえてひとかたならぬ苦労を重ねた2人だが、老いてなおチャーミングなリリアンのほがらかな語りも魅力。レンズの視界を熟知した夫の技量を、彼女は「ノルデン照準器をのぞいて何十回と爆撃をした戦場で身につけたのよ」という。これを聞いたとき「おお」とうなった。

 手前味噌で恐縮だが、筆者が「空の帝国 アメリカの20世紀」(講談社2300円)で論じたのも、こんな歴史の裏面だったからである。

〈生井英考〉

5月27日から恵比寿ガーデンシネマほかで公開

【連載】シネマの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  2. 2

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  3. 3

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  4. 4

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  5. 5

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  1. 6

    大炎上中の維新「国保逃れ」を猪瀬直樹議員まさかの“絶賛” 政界関係者が激怒!

  2. 7

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  3. 8

    維新の「終わりの始まり」…自民批判できず党勢拡大も困難で薄れる存在意義 吉村&藤田の二頭政治いつまで?

  4. 9

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?

  5. 10

    SKY-HI「未成年アイドルを深夜に呼び出し」報道の波紋 “芸能界を健全に”の崇高理念が完全ブーメラン