老いてなお「今」を生きる写真家

公開日: 更新日:

 先月末から東京・渋谷のBunkamuraル・シネマほかで公開中のドキュメンタリー映画「Don’t Blinkロバート・フランクの写した時代」が若い観衆に好評という。フランクは日本で殊の外、人気のあるアメリカの写真家だが、隣接の美術館でもフランクの同時代人ソール・ライターの写真展が開催され、相乗効果か予想以上の人出だそうだ。

 フランクもライターもデジタル時代以前の写真家で、ことに50年代のフランクはスイスから移民してきたばかりの、無口で徒手空拳の貧しい一匹狼だった。そのすねたような目で9カ月間、オンボロの中古車で旅した全米の人と風物の写真集「アメリカ人」は長く批評家にまったく無視され、本格的な注目は70年代になってからのこと。それが今、多くの若者たちの心を捉える。恐らく彼らは、すべてをつるんと平準化してしまうデジタル時代には得難い「はみ出し者の心」と「不合理への衝動」を、フランクの写真に見ているのだろう。

「アメリカ人」を有名にした一因が友人でもあった作家ジャック・ケルアックの序文だったのは有名だが、その彼の代表作「オン・ザ・ロード」(河出書房新社 950円+税)を読むとそんな衝動の感触がよくわかる。

 映画が高く評価されるようになってからも、娘の死や息子の自殺などの悲劇に見舞われた彼の、92歳になった現在をてらいなく映し出す。苦難があっても「恐れるな、立ち上がれ、まばたきするな」という彼の言葉が題名の由来。戦後らしい青春の文化だったビートニクの、老いてなお「いま」を生きる姿。
〈生井英考〉

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  2. 2

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  3. 3

    佐々木朗希“大幅減速”球速160キロに届かない謎解き…米スカウトはある「変化」を指摘

  4. 4

    ヤクルト村上宗隆 復帰初戦で故障再発は“人災”か…「あれ」が誘発させた可能性

  5. 5

    清原果耶ついにスランプ脱出なるか? 坂口健太郎と“TBS火10”で再タッグ、「おかえりモネ」以来の共演に期待

  1. 6

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

  2. 7

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  3. 8

    「皐月賞」あなたはもう当たっている! みんな大好き“サイン馬券”をマジメに大考察

  4. 9

    ヤクルト村上宗隆「メジャー430億円契約報道」の笑止…せいぜい「5分の1程度」と専門家

  5. 10

    常勝PL学園を築いた中村監督の野球理論は衝撃的だった…グラブのはめ方まで徹底して甲子園勝率.853