仲代が認知症の老名優役

公開日: 更新日:

 近ごろ映画でもテレビでもめったに見ないのが「新劇俳優」。昔の日本映画には映画スターとは別枠で新劇俳優が多数登場し、若手ばかりの日活あたりなら、重厚な悪役は新劇俳優が占領したも同然だった。いま、そんな時代のなごりを体現する代表が仲代達矢(写真)。今年84歳になる彼に捧げられたのが先週末封切りの映画「海辺のリア」だ。

 小林政広監督のオリジナル脚本は題名が示す通り「リア王」の翻案。仲代と「リア王」といえば黒澤明「乱」が思い出されるが、本作は認知症を患う往年の名優が不実な長女やその婿、よそで生ませた次女らの思惑や葛藤にさらされるというミニマルな家庭劇の趣向。そこで周囲を固める原田美枝子阿部寛黒木華、そして原田の密通相手として登場する小林薫らと主演の仲代の芝居の違いが際立つのだ。

 たとえば仲代の発声はあくまで端正な新劇の日本語。しかし周囲は新劇以後のアングラ演劇や小劇場育ちを体現し、さながら5人の俳優の競演が現代日本演劇そのものの歩みのようなのである。

 惜しむらくは互いのからみが未消化で、せっかく裏日本の海岸部でロングショットを多用した風景の神話的な気配を生かしきれていないところ。「なぜリア王なのか」を突き詰めた監督自身の思想を見たかったと思うのは失礼ではないだろう。

 新劇の力を「語られる言葉の美」と呼んだのは新劇運動の祖・岸田國士。翻訳文体の非日常性を通して日本の遺制に挑もうとした志は「岸田國士1」(早川書房 1260円+税)でいまも読むことができる。
 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    落合博満さんと初キャンプでまさかの相部屋、すこぶる憂鬱だった1カ月間の一部始終

  2. 2

    “芸能界のドン”逝去で変わりゆく業界勢力図…取り巻きや御用マスコミが消えた後に現れるモノ

  3. 3

    渡辺謙63歳で「ケイダッシュ」退社→独り立ちの背景と21歳年下女性との再々婚

  4. 4

    参政党は言行一致の政党だった!「多夫多妻」の提唱通り、党内は不倫やら略奪婚が花盛り

  5. 5

    悠仁さま「友人とガスト」でリア充の一方…警備の心配とお妃候補との出会いへのプレッシャー

  1. 6

    伊東市長「続投表明」で大炎上!そして学歴詐称疑惑は「カイロ大卒」の小池都知事にも“飛び火”

  2. 7

    大阪万博は鉄道もバスも激混みでウンザリ…会場の夢洲から安治川口駅まで、8キロを歩いてみた

  3. 8

    早場米シーズン到来、例年にない高値…では今年のコメ相場はどうなる?

  4. 9

    中島歩「あんぱん」の名演に視聴者涙…“棒読み俳優”のトラウマ克服、11年ぶり朝ドラで進化

  5. 10

    米価高騰「流通悪玉論」は真っ赤なウソだった! コメ不足を招いた農水省“見込み違い”の大罪