ナショナリズムとサッカーを考える好著

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「サッカーと愛国」清義明著/イースト・プレス 1500円+税

 ネット上に吹き荒れる「嫌韓」が始まったのは実は2002年のサッカーW杯日韓大会だった、という指摘から、「サッカーとナショナリズム」「サッカーと人種差別」といった点にフィールドワークを続けながら迫った書である。

 4月25日に行われたアジアチャンピオンズリーグ・川崎フロンターレVS水原三星(韓国)の試合で、川崎のサポーターが旭日旗を掲げたことから、川崎は罰金1万5000ドル、アジアサッカー連盟主催試合の1試合無観客試合(1年の執行猶予)の処分を受けた。

 これを受け、ネットでは「旭日旗は問題ない」「連盟は韓国の手先」といった意見が噴出したが、同様に感じた人も多かったのでは。だが、中国人サポーターのこんなコメントは印象的だ。

〈日本は嫌いではない。中国が予選で負けるというのもあるが、ワールドカップでは日本代表を応援するぐらいだ(中略)けれど、過去の話になると別だろう。中国人で親類縁者が日本人に殺されていない人はいない。旭日旗はその象徴だ〉

 歴史的解釈については学者の判断と後世に委ねるところがあるが、横浜F・マリノスのサポーターグループのリーダーだった著者は世界のスタジアムで現地や対戦国のサポーターと接してきた。そんな中の一つの言葉がこの発言なのだ。

 代表チームの試合というものは愛国心が沸き上がるもの。ワールドカップで日本が勝利すれば、渋谷・スクランブル交差点では見知らぬ者同士のハイタッチが繰り広げられる。このレベルであれば「応援しているチームが勝った」程度の話だが、14年3月、Jリーグ史上初の無観客試合の発端となった埼玉スタジアム2002における人種差別騒動は、「サッカーと愛国」を考えるうえで避けては通れない。

 観客席に入るゲートのところに「JAPANESE ONLY」(≒外国人お断り)と書かれた横断幕が張られてあり、これが試合終了まで撤去されなかったのだ。これに対し、主催の浦和レッズがどう対処したかや、シーズン直前に加入した元在日韓国人・李忠成がこの横断幕にいかに影響したかの関係などを解き明かすほか、李の父・鉄泰氏へのインタビューも掲載されている。

 また、エジプトや旧ユーゴ、トルコ、イタリア等におけるサッカーと愛国・差別・民主化についても言及されており、来年のW杯を観戦するにあたって、押さえておきたい知識が豊富にちりばめられている。 

★★★(選者・中川淳一郎)

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