「女子プロレスラー小畑千代」秋山訓子著

公開日: 更新日:

 日本の女子プロレスは、60年以上の歴史を持つ。小畑千代は、女子プロレスラーの草分け的なスターで、1955年のデビュー以来、21年の長きにわたる現役生活を送った。男のものだった格闘技の世界に飛び込み、女性アスリートの生き方を切り開いた先駆者でもあった。

 1936年、台東区吾妻橋の生まれ。父は印刷職人で、9人きょうだいの6番目。小さいときから運動が得意で、運動会の主役だった。米国から上陸した女子プロレスに最初に魅せられたのは妹のほうで、親にも内緒で東洋女子プロレスに入門。やめさせようと道場をのぞき、ミイラとりがミイラになった。

 自分の体一つで勝負したい。痛い、苦しい思いをするからこそ、トップを極めたい。人生をプロレスに懸けた。もともと身体能力が高い小畑はメキメキと腕を上げ、プロデビュー。しかし、女性の格闘技に対する差別や偏見は強く、エログロ、キワモノ扱いされることが少なくなかった。観客席から下品なヤジが飛ぶと、リングを下りてヤジの当人と対決した。

 長い現役生活では、地方巡業で日本中を回り、韓国、ハワイ、返還前の沖縄でも興行。

 派手に稼ぎ、気前よく金を使った。1976年、興行の傍ら、盟友のレスラー佐倉輝美とともに浅草にバー「さくら」を開くと大はやり。プロレス同様、清潔で健全な店にこだわった。

 女を売らず、こびず、自由に、自立する。男女差別が歴然とあった高度成長下の日本で、文字通り「闘う女」として生きた。80歳を越えた今も、小畑はトレーニングを欠かさない。気持ちは生涯現役。なんとあっぱれなアスリート人生なのだろう!(岩波書店 1900円)

【連載】人間が面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?