がん細胞を増やす“犯人”をピンポイント攻撃

公開日: 更新日:

「がん治療革命の衝撃」NHKスペシャル取材班著

 余命1年と宣告された進行がんの患者が、5年後も元気でいられる。がん治療の進化により、そんな時代がやってきている。

 カギを握るのが、「プレシジョン・メディシン(精密医療)」。がん細胞の遺伝子を解析し、その性質に合った治療を行っていくというものだ。がん細胞が持つ遺伝子の解析には膨大な時間と費用がかかっていたが、「次世代シーケンサー」と呼ばれる装置が登場したことで、高速かつ安価に遺伝子変異を突き止めることが可能になっている。これにより、新薬の開発も加速している。

 従来の抗がん剤は、“盛んに分裂する”というがん細胞特有の性質を抑え込む特徴を持っている。しかしその分、骨髄や毛髪を作る細胞など、増殖が活発な正常細胞まで攻撃され、治療の妨げとなっていた。

 しかし、プレシジョン・メディシンで用いられる薬では、遺伝子変異別にグループ分けしてピンポイントで狙い撃ちができるため、副作用が非常に少なくて済む。分子標的薬という治療薬の場合、がん細胞の異常増殖を促す犯人である、異常タンパク質の分子を標的として結合し、その働きを抑え込む。がん細胞に栄養を運ぶための血管を作る分子を抑え込んで、がん細胞を兵糧攻めにするタイプもある。保険適用になっている分子標的薬は、現在50種類と急増中だ。

 プレシジョン・メディシンの最先端国であるアメリカの治療現場も紹介。がんはついに不治の病ではなくなるかもしれない。

 (NHK出版 780円+税)

【連載】長生きする読書術

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    どこよりも早い2026年国内女子ゴルフ大予想 女王候補5人の前に立ちはだかるのはこの選手

  4. 4

    「五十年目の俺たちの旅」最新映画が公開 “オメダ“役の田中健を直撃 「これで終わってもいいと思えるくらいの作品」

  5. 5

    「M-1グランプリ2025」超ダークホースの「たくろう」が初の決勝進出で圧勝したワケ

  1. 6

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 7

    福原愛が再婚&オメデタも世論は冷ややか…再燃する「W不倫疑惑」と略奪愛報道の“後始末”

  3. 8

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  4. 9

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ

  5. 10

    官邸幹部「核保有」発言不問の不気味な“魂胆” 高市政権の姑息な軍国化は年明けに暴走する