著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「夜の動物園」ジン・フィリップス著、羽田詩津子訳

公開日: 更新日:

 銃を持った男が動物園を占拠する。閉園間近だったので、多くの客は動物園をあとにしていたが、中にはまだ園内に残っている人間もいて、それが主人公の親子だ。占拠した男の目的が何であるのかはわからない。男は一人ではなく、複数らしいこと。わかるのはそれだけだ。

 親子は急いで隠れるのだが、ヒロインのハンディは4歳の息子を連れていること。息子が大声で泣きだしたら男たちに聞かれてしまい、ピンチになる。だから必死で言い聞かす。かくて、夜の動物園を逃げまわることになる。このように本書は、母親と幼い息子の恐怖の3時間を描くサスペンス小説である。

 これだけならシンプルすぎる話だが、もちろんこれだけではない。途中から、おやっと思う展開になり、それからたたみかけるようにいくつかのことが起きる。どんなことが起きるのか、それをここで紹介してしまったら読書の興をそぐことになるので、ここではぐっと我慢。最初は携帯電話で外部と連絡を取っていたが、その携帯電話を落としてしまって何が起きているのか皆目わからないという展開もいい。常套的ながら、こういう細部の積み重ねがサスペンスを盛り上げるのである。

 登場人物の過去と現在、意見と感情を巧みに描いているのもよし。サスペンスに奥行きが生まれているのはそのためにほかならない。4歳の息子リンカーンが、けなげで可愛いのもいい。

(KADOKAWA 1080円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    ドジャース佐々木朗希「今季構想外」特別待遇剥奪でアリゾナ送還へ…かばい続けてきたロバーツ監督まで首捻る

  4. 4

    中日・中田翔がいよいよ崖っぷち…西武から“問題児”佐藤龍世を素行リスク覚悟で獲得の波紋

  5. 5

    西武は“緩い”から強い? 相内3度目「対外試合禁止」の裏側

  1. 6

    「1食228円」に国民激怒!自民・森山幹事長が言い放った一律2万円バラマキの“トンデモ根拠”

  2. 7

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  3. 8

    辞意固めたか、国民民主党・玉木代表…山尾志桜里vs伊藤孝恵“女の戦い”にウンザリ?

  4. 9

    STARTO社の新社長に名前があがった「元フジテレビ専務」の評判…一方で「キムタク社長」待望論も

  5. 10

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは