行政の決済文書は押印者が“責任者”

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 豊洲市場に森友・加計学園、南スーダンへのPKO部隊派遣など、昨年起こったこれらの問題にはひとつの共通点がある。それは、公文書管理がずさんであったということだ。瀬畑源著「公文書問題」(集英社 740円+税)では、数々の問題の核心に迫りながら、公文書管理の重要性を解説している。

 公文書とは、公務員が職務遂行の必要から作成するもの。自分が責任を負う立場の相手に対して、行った業務を説明し、政策の正当性を検証するためにも必要不可欠なものだ。公務員が責任を負う立場の相手とは、上司や大臣(政治家)だけではない。日本国憲法において公務員は「全体の奉仕者」とされ、国民に対して責任を負う必要がある。もっとも説明責任を有するのは、国民に対してなのだ。

 しかし、自民党による保守政権が長く続いたことで、あらゆる情報は自民党の政治家と公務員とで意図的に独占されてきた。

 そのため、公文書の公開を制度的に保証する情報公開制度の整備は、遅々として進まなかった。2011年になってようやく公文書管理法が施行されたが、7年が経過する今日でも、まったく徹底されていないと本書。

 豊洲市場問題では、盛り土をしないことを決めた責任者は誰であったのか、徹底的なヒアリング調査が行われたが、十分な追及には至らなかった。しかし、そもそもヒアリングが行われること自体がおかしいと著者は言う。なぜなら、市場の設計に大幅な変更があった以上、誰かが書類を作っているはずだからだ。公務員は文書主義の世界で生きており、口頭のみで重要な決定が行われることなどあり得ない。そこに決裁文書があれば、印鑑を押している人が“責任者”である。

 しかし、都の部局である中央卸売市場には公文書がろくに残っておらず、さらに盛り土の工法を検証した外部有識者の技術会議の会議録が捏造されていたことも判明している。豊洲市場の問題は、公文書管理条例が制定されていないことと、都の公務員に説明責任という発想が存在しなかったことが原因なのだ。

 安倍政権を揺るがす数々の問題も、公文書を軽んじることで起きており、国民を愚弄するものだと本書。公的な情報を隠そうとする政治を、信頼できるはずがない。

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