「トコヤ・ロード」林朋彦著

公開日: 更新日:

 世にも珍しい「床屋」写真集。それもシリーズ2冊目だという。前作「東海道中床屋ぞめき」では日本橋から京都まで探し歩いた床屋さんを撮影したが、今作では以前に旅先で出合った店を再訪するなど、気ままに歩いて見つけた、北は青森から南は福岡までの「味のある」床屋さん42軒を収録する。

 最近は、必要最小限のサービスで時短格安をうたうチェーン店などで済ます人も多いが、子供のころから何十年も同じ床屋さんに通い続けているという人の話もよく聞く。

 著者が被写体に選ぶ店も、長年の常連客を相手に町の歴史とともに営々と時を刻んできた、ちょっとくたびれた、そしてそれが味わいとなっている店だ。

 修善寺の「バーバー花井」は、店名が書かれたペンキのはげた木枠のガラス戸を開けて一歩足を踏み入れれば、すぐに昭和の世界にタイムトラベルしたような気分になれる。これまで客と交わした日々の何げない会話が染み込んでいるような店内のたたきの床にはブルーの理容椅子が据えられ、昔ながらの石造りの水回りは、何ともレトロな給湯器といいコンビを組んでいる。

 どれだけ建物や内装、什器がくたびれていようが、磨き込まれた鏡や光沢あるたたきが、この店がまだまだ現役で頑張っていることを無言で伝える。

 神奈川・鎌倉の「山岸理容店」の椅子は、見たことがない時代モノ。玉座のような装飾がほどこされ、まさに骨董品のようだ。一方、埼玉・飯能の「吉川理容所」の待合室は、ソファとは別に畳敷きの小上がりに火鉢まで備えており、町の小さな社交場の趣だ。

 他にも、サインポールと並んでそば屋や割烹のような和風のあんどん看板が客を迎えてくれる栃木・那須塩原の「理容ワタナベ」など。店が積み重ねてきた歴史と店主の人生が堆積した店は、それぞれが個性的で、チェーン店に感じられる無機質さはみじんもない。店主にとって、人生の中で一番長く過ごしてきた店のスペースは、職場であるとともに書斎、趣味の部屋でもあるようだ。

 東京・志村のとある店は、店主が鉄道ファンとひと目で分かる。店内の壁をコレクションの鉄道標識グッズが埋め尽くしているのだ。

 一方、青森・おいらせの「ヘアーサロン スズキ」の店内のガラスケースには店主の自作だろうか自慢の「ガンプラ」が並ぶ。さらに、ふと窓の外を見てみれば、店の前の空き地にも高さ3メートルはあろうかという巨大なガンダムたちが、店を守るように攻撃態勢を整え整然と並んでおり、その迫力に度肝を抜かれる。 

 それぞれの店主の人柄がにじみ出た店は、どこかほっとする温かみを感じさせる。

 世にも珍しいなどと書いたが、読後はよくぞ撮影して残してくれたと、あっぱれな気持ちになる。

(風人社 1400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元横綱照ノ富士が“弟子暴行”で角界に大激震! 転籍組との微妙な関係、燻っていた「無理やり改名」の火種

  2. 2

    競泳アイドル池江璃花子の初ロマンスに見えてくる「2つの夢」…りくりゅうに続くメダルともうひとつ

  3. 3

    侍Jで待遇格差が浮き彫りに…大谷翔平はもちろん「メジャー組」と「国内組」で大きな隔たり

  4. 4

    弟子を殴った元横綱照ノ富士 どれだけ潔くても厳罰必至か…「酒瓶で…」「女性を庇った」飛び交う情報

  5. 5

    Adoの初“顔出し”が話題 ミステリアス歌手の限界と20年非公表の「GRe4N BOYZ」との違い

  1. 6

    Snow Man宮舘涼太の交際発覚にファンが怒るワケ 「よりによって相手は女子アナ…」

  2. 7

    元横綱・照ノ富士の暴力事件で伊勢ケ浜部屋は評判ガタ落ち…絶頂期が一転「指導者も親も嫌がる」

  3. 8

    イラン攻撃に沈黙する高市外交の“二枚舌” 米国とイスラエルの暴挙に「法的評価は控える」の笑止

  4. 9

    イラン攻撃が招く原油爆騰インフレの恐怖「サナエノミクス」で庶民への打撃拡大…それでも「利上げ」に反対なのか

  5. 10

    熱意と覚悟が欠如…国内男子ツアーの衰退を加速させる日本ゴルフツアー機構の“残念さ”