私も「不法占拠」の東大駒場寮に住んでいたのだ

公開日: 更新日:

「東大全共闘1968-1969」渡辺眸著/KADOKAWA/1360円+税

 写真専門学校を出たばかりの女性カメラマン・渡辺眸氏が、学生運動が活発だった時代の「東大闘争」を記録したもの。元東大全共闘代表である山本義隆氏の寄稿も収録されているが、渡辺氏は100本以上のフィルムを持っていたという。もしも36枚撮りであれば3600枚以上にものぼる膨大な写真の数だが、その中から厳選されたものを本書では紹介している。

 写真の中にはいわゆる「ゲバ文字」で「斗争指令」や「日帝打倒」などと書かれているものもある。また、有名な「連帯を求めて孤立を恐れず 力及ばずして仆れることを辞さないが 力を尽くさずして挫けることを拒否する」という落書きも収録されている。

 そして、安田講堂での機動隊と学生の対峙の日の様子も収録されており、学生運動をめぐる貴重な記録集となっている。学生運動については、我々の世代(1973年生まれ)からすれば「何のためにやっていたの?」としか思えない珍行動なのだが、本書で納められた写真には明らかな高揚感と「正義」のための「斗争」の様子が描かれている。結果的に学生運動に関わった人々も逮捕されたり、あるいは髪の毛を切って真面目に就職をしたりしたが、当時の熱気は写真を通じて伝わってくる。

 昨今、国会前での反政権デモなどが行われるようになっているが、全共闘世代の参加も目立つ。「わが青春よもう一度」といった感もあるのかもしれないが、なんらかの「連帯」を今でも求めているのだろうか。

 さて、私自身、本書に親近感を覚えるのは過去に東大の駒場寮に住んでいたからである。会社員時代に、知人の東大生の部屋に潜り込んでいたのだ。廃寮が決まっていた駒場寮は長年にわたり学生と大学当局の間で衝突が発生していた。大学からすれば寮に住むことは「不法占拠」にあたるとしてきたが、それに抵抗していた学生が約30人残った。結果的に駒場寮は2001年8月に強制執行を受け、全員が追い出された。以後1カ月ほどの猶予期間が寮生には与えられ、荷物を取り出したりすることが可能になった。

 私はこの間、私が約2年住んだ部屋にあった学生運動時代のヘルメットを箱詰めしていた。全共闘世代の寮生がかぶっていたであろうヘルメットは貴重な資料であると考え、その部屋に住んでいたOBに送った。現在、とある放送局の倉庫にこれらのヘルメットは眠っている。

 ★★★(選者・中川淳一郎)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    ドジャース佐々木朗希「今季構想外」特別待遇剥奪でアリゾナ送還へ…かばい続けてきたロバーツ監督まで首捻る

  4. 4

    中日・中田翔がいよいよ崖っぷち…西武から“問題児”佐藤龍世を素行リスク覚悟で獲得の波紋

  5. 5

    西武は“緩い”から強い? 相内3度目「対外試合禁止」の裏側

  1. 6

    「1食228円」に国民激怒!自民・森山幹事長が言い放った一律2万円バラマキの“トンデモ根拠”

  2. 7

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  3. 8

    辞意固めたか、国民民主党・玉木代表…山尾志桜里vs伊藤孝恵“女の戦い”にウンザリ?

  4. 9

    STARTO社の新社長に名前があがった「元フジテレビ専務」の評判…一方で「キムタク社長」待望論も

  5. 10

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは