ネット愚民時代

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「普通の奴らは皆殺し」アンジェラ・ネイグル著 大橋完太郎訳 清義明監修・注釈

 ネットが発達して本当に世界はよくなったのか。みなは賢くなったのか? 愚民化する世界を直視する。

  ◇  ◇  ◇

「普通の奴らは皆殺し」アンジェラ・ネイグル著 大橋完太郎訳 清義明監修・注釈

 ものすごい書名だが、原題も同じ。「キル・オール・ノーミーズ」。「ノーミー」はノーマルの俗語で「そのへんの雑魚」のようなニュアンスになる。

 著者はアイルランド在住のアメリカ人。作家で社会評論家、「反フェミニストのオンライン・サブカルチャーに関する研究」で博士号を取得したそうだが、詳細は不明。しかし中身は他の追随を許さない。なによりアメリカのネットサブカルの世界をすみずみまで知り尽くし、その中にうごめく欲望や罵詈雑言を直視する。

 最初は新しい公有地として大いに期待されたインターネット。オバマが選ばれた大統領選のころまでは、期待と新しい時代の予感にあふれた色合いがネットの主流だった。ところがその時の大統領選をきっかけにネットミームが氾濫しはじめ、「アイロニカルで内輪ウケ的な意味の迷宮」が繰り広げられるようになったという。元々無害なキャラにすぎない「カエルのペペ」がオルタナ右翼のアイコンに変貌させられたのなどは今や昔話だろう。

「タブーを破る反ポリコレ的なスタイル」は匿名のネット空間をあっという間に汚染したのだ。

(Type Slowly 2420円)


「SNS時代の戦略兵器陰謀論」長迫智子ほか著

「SNS時代の戦略兵器陰謀論」長迫智子ほか著

 かつては学者に「まじめに検討するに値しない」とすらいわれて軽視された陰謀論。しかし今やSNSで世に流布される陰謀論は政治的な威力をもあなどれない。

 先の兵庫県知事選挙にしても「知事は既成勢力の政党やマスコミにイジメを受けている」というネット民の声を支持する勢いが強かったといわれるが、「既成勢力のイジメ」という見方自体が、誰かが陰謀をたくらんでいるという陰謀「論」なのだ。

 本書はこの陰謀論が国際関係の上でプロパガンダに用いられ、ロシアや中国による匿名の「兵器」になっている現状を直視しようと訴える。それが「認知戦」。「選挙プロセス、制度、同盟国、政治家などに対する国民の信頼」を左右しようとする巧妙なプロパガンダに振り回されないための対抗手段や備えのことだ。

 こうした時代には公的機関以上に民間の役割が大きくなるという。著者3人はいずれも安全保障論の専門家だ。

(ウェッジ 1980円)

「テクノ封建制」ヤニス・バルファキス著 関美和訳 斎藤幸平解説

「テクノ封建制」ヤニス・バルファキス著 関美和訳 斎藤幸平解説

 21世紀になって資本主義は終わり、何か別のものに移行しつつあると著者はいう。別のものとはなにか。世間が期待する共同体主義などではない。封建制というのだ。それもハイテクを駆使した封建制だ。ネットの発達はアルゴリズムが富を生む新しい技術を社会に実装し、さらにAIの登場とリンクしてクラウド資本を生み出した。

 かつてインターネットは共有地だったが、いまはそれが囲い込まれ、テクノ時代の資本家はそれぞれの領土(プラットフォーム)を持っている。すると旧来の資本家は自分の商売のためにそのクラウド領土を使わせてもらうことになる。アマゾンの出品者がそれだ。彼らはアマゾンという領主にレント(賃借料)を支払っている。彼らはクラウド領主の封臣なのである。

 一般のネットユーザーはせっせと検索や投稿をして領土の価値を高めている。それは一般人が農奴となっていることを意味するのだ。レビューする、動画を上げる。それはすべて農奴労働なのだ。クラウド領主はこれまでのように労働だけではなく、消費や遊びまで搾取しているのだ。なんという時代!

(集英社 1980円)

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