初歩的な「どっちもどっち」論への反発

公開日: 更新日:

「実録・レイシストをしばき隊」野間易通著/河出書房新社

 4月23日付の本紙のこの欄で取り上げた「創価学会秘史」(講談社)の著者、高橋篤史が大鹿靖明編著の「ジャーナリズムの現場から」(講談社現代新書)で、現在のジャーナリズムを覆っている「池上彰」化を嘆いている。

 わかりやすい解説ばかり求めて、タブーに挑戦しなくなっていることを憂えているのだと思うが、「池上彰」化はまた、あたかも偏らない公正中立な立場があるような幻想を肥大させている。それは池上がいた“NHK病”とも言えるだろう。

 2013年2月24日、大阪の鶴橋で女子中学生がこんなことをがなった。

「鶴橋に住む、在日クソチョンコのみなさん、こんにちは。みなさんが憎くて憎くてたまらないです。もう、殺してあげたい! いつまでも調子にのっとったら南京大虐殺じゃなくて鶴橋大虐殺を実行しますよ!」

 こんなヘイトスピーチをするレイシストこそ調子にのっているのだと私は思うが、「レイシストをしばき隊」は「レイシストを対面で叱る」、それもできるだけ上から目線で子どもを叱るように叱るために組織された。「チョンコ」とは汚い大阪弁で朝鮮人を指し、こんなヘイトスピーチを放ちながらデモをするレイシストに対して、リーダーの野間は次のような指示を出した。

「デモの参加者には、粗暴な人間がかなり含まれています。しかし、こちらは絶対に非暴力を貫いてください。もし相手が殴ってきた場合は、そのまま殴られてください。逮捕、検挙、告訴に持ち込むネタになります。ここでカッとなってやり返してしまう可能性のある方は、参加をご遠慮ください」

 ジャーナリズムの「池上彰」化に関連して私が著者に最も共感したのは、初歩的な「どっちもどっち」論への反発である。

 しばき隊に対して、主に左派やリベラルから「それではあいつらと同じレベルになるのではないか」という批判が殺到したというが、野間はそれらに真っ向から反論した。上品さから脱せられないからレイシストがはびこったのだ。しかし、「陳腐などっちもどっち論から、在日当事者による迷惑論、さらにはデマと憶測を交えた批判まで」が押し寄せ、野間は「若干心が折れ気味になった」という。

 それでも野間は、それまでの対抗行動に欠けているものとして「罵声はいくら浴びせてもかまわない」と主張した。「くたばれ! どっちもどっち」である。

★★半(選者・佐高信)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    U18高校代表19人の全進路が判明!プロ志望は7人、投手3人は中大に内定、横浜高の4人は?

  2. 2

    「時代に挑んだ男」加納典明(43)500人斬り伝説「いざ…という時に相手マネジャー乱入、窓から飛び降り逃走した」

  3. 3

    巨人・田中将大が好投しても勝てないワケ…“天敵”がズバリ指摘「全然悪くない。ただ…」

  4. 4

    永野芽郁が“濡れ場あり”韓流ドラマで「セクシー派女優転身、世界デビュー」の仰天情報

  5. 5

    《浜辺美波がどけよ》日テレ「24時間テレビ」永瀬廉が国技館に現れたのは番組終盤でモヤモヤの声

  1. 6

    沖縄尚学・末吉良丞の「直メジャー」実現へ米スカウトが虎視眈々…U18W杯きょう開幕

  2. 7

    世界陸上復活でも「やっぱりウザい」織田裕二と今田美桜スカスカコメントの絶妙バランス

  3. 8

    「24時間テレビ」大成功で日テレが背負った十字架…来年のチャリティーランナー人選が難航

  4. 9

    15年前に“茶髪&へそピアス”で話題だった美人陸上選手は39歳、2児のママ…「誹謗中傷もあって病んだことも」

  5. 10

    日本ハム新庄監督は来季続投する?球団周辺から聞こえた「意味深」な声