(29)時はコロナ禍…東京ー熊本の行き来は絶対に誰にも言えない

公開日: 更新日:

 父が残した猫4匹を東京に引き取ると決意した私は、叔母に一時的な世話を頼みながら、短期間で何度か東京と熊本を往復していた。父の死に関する事務処理を進めなければならなかったからだ。役所への死亡届、携帯電話の解約、廃車や保険の解約、そして母の遺族年金への切り替え。近いうちに実家の相続の手続きも始めなければならないだろう。

 東京はコロナ禍の緊急事態宣言中で、感染者数も多く、地方への帰省や観光などは控えるよう呼びかけられていた。見えない強い境界線があった。実際、空港や飛行機は驚くほど空いていた。この年の2月に医療従事者へのワクチン接種が始まったばかりで、まだ世間が不安に包まれていた頃。熊本への行き来は、周囲には絶対に言うことができなかった。

 父の財産状況も次第に明らかになった。幸い、借金はなかったが、同時に貯蓄もほとんど残っておらず、生命保険にも入っていなかったことがわかった。しかも、火災保険は1年以上前に期限が切れており、証書を見たときにゾッとした。

 昔から書類の記入や振り込みのスケジュール管理などが得意で、実家のさまざまな細かい契約ごとを担当していた父でも、こんな見落としがあるほど老いて弱っていたのだ。母の様子にばかり気を取られ、挙げ句の果てにはけんかをして連絡も取らず、まったく気を配ってこなかった自分を改めて責めた。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  4. 4

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず

  5. 5

    本命は今田美桜、小芝風花、芳根京子でも「ウラ本命」「大穴」は…“清純派女優”戦線の意外な未来予想図

  1. 6

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 7

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  3. 8

    石破首相続投の“切り札”か…自民森山幹事長の後任に「小泉進次郎」説が急浮上

  4. 9

    今田美桜「あんぱん」44歳遅咲き俳優の“執事系秘書”にキュン続出! “にゃーにゃーイケオジ”退場にはロスの声も…

  5. 10

    参政党のSNS炎上で注目「ジャンボタニシ」の被害拡大中…温暖化で生息域拡大、防除ノウハウない生産者に大打撃