(29)時はコロナ禍…東京ー熊本の行き来は絶対に誰にも言えない

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 父が残した猫4匹を東京に引き取ると決意した私は、叔母に一時的な世話を頼みながら、短期間で何度か東京と熊本を往復していた。父の死に関する事務処理を進めなければならなかったからだ。役所への死亡届、携帯電話の解約、廃車や保険の解約、そして母の遺族年金への切り替え。近いうちに実家の相続の手続きも始めなければならないだろう。

 東京はコロナ禍の緊急事態宣言中で、感染者数も多く、地方への帰省や観光などは控えるよう呼びかけられていた。見えない強い境界線があった。実際、空港や飛行機は驚くほど空いていた。この年の2月に医療従事者へのワクチン接種が始まったばかりで、まだ世間が不安に包まれていた頃。熊本への行き来は、周囲には絶対に言うことができなかった。

 父の財産状況も次第に明らかになった。幸い、借金はなかったが、同時に貯蓄もほとんど残っておらず、生命保険にも入っていなかったことがわかった。しかも、火災保険は1年以上前に期限が切れており、証書を見たときにゾッとした。

 昔から書類の記入や振り込みのスケジュール管理などが得意で、実家のさまざまな細かい契約ごとを担当していた父でも、こんな見落としがあるほど老いて弱っていたのだ。母の様子にばかり気を取られ、挙げ句の果てにはけんかをして連絡も取らず、まったく気を配ってこなかった自分を改めて責めた。

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