「ウォーターゲーム」吉田修一著

公開日: 更新日:

 ダム補修現場の作業員の若宮真司は、ある夜、雇い主の若社長の手引きで、ダム決壊の現場を目撃する。濁流が町をのみ込んだ大惨事は、事故ではなく、何者かが仕組んだ爆破によるものだった。その夜から、真司は姿を消した。

 一方、AN通信の鷹野一彦は、部下の田岡とともに、複数の爆破計画を阻止する任務を負って動いていた。

 異色の産業スパイ・鷹野一彦シリーズの第3作。水道事業民営化に関わる利権を巡って、政治家、巨大企業、投資家の思惑が交錯、虚々実々の駆け引きを繰り広げる。ダムの爆破テロ事件に巨悪のにおいを嗅ぎつけた新聞記者・九条麻衣子や、自由奔放なスパイ、アヤコたちの動きが絡み合う。

 AN通信は表向きアジアのリゾートや旅ガイドを扱う通信社だが、実は、虐待された子供や孤児を集めて諜報員に育て上げるという特殊な産業スパイ組織。鷹野も田岡も、鍛え上げられた精神力と身体能力で、007顔負けの活躍を繰り広げる。

 命を賭して世界を駆けるスパイたちは、つらい過去を背負っているがゆえに、過酷な仕事の場でひときわ輝くのだ。

 朝日を浴びるアンコールワットや熱風のタクラマカン砂漠など、舞台は壮大だ。やがて、姿を消していた作業員、真司とAN通信の意外なつながりが見えてきて、物語がさらなる展開へ――。

(幻冬舎 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    どこよりも早い2026年国内女子ゴルフ大予想 女王候補5人の前に立ちはだかるのはこの選手

  4. 4

    「五十年目の俺たちの旅」最新映画が公開 “オメダ“役の田中健を直撃 「これで終わってもいいと思えるくらいの作品」

  5. 5

    「M-1グランプリ2025」超ダークホースの「たくろう」が初の決勝進出で圧勝したワケ

  1. 6

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 7

    福原愛が再婚&オメデタも世論は冷ややか…再燃する「W不倫疑惑」と略奪愛報道の“後始末”

  3. 8

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  4. 9

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ

  5. 10

    官邸幹部「核保有」発言不問の不気味な“魂胆” 高市政権の姑息な軍国化は年明けに暴走する