「跳ぶ男」青山文平著

公開日: 更新日:

 貧しい小藩の藤戸藩には、まっとうな墓地を造るような土地もなく、亡きがらはすべて海へ流されていた。道具役(能役者)の長男として生まれた屋島剛は、同じ能役者の友・岩船保が「俺はこの国をちゃんとした墓参りができる国にするんだ」と言うのを憧れをもって聞いていた。保はその思いを実現するべく学問に励み、藩の上層部からも将来を嘱望されていた。しかし、志半ばで、保は不始末をしでかし切腹。友を失い呆然とする剛だが、目付の鵜飼又四郎から、急逝した藩主の身代わりになれと命じられる。

 血のつながった世継ぎがない場合は、あらかじめ幕府に届けて養子を迎えねばならないのだが、急な死のため届けられず、それが認められる17歳まで藩主が生きていることにしなければならない。また、藤戸藩が将来を得るには、江戸城で行われる招請能で存在を示すしかない。その役割を負うはずの保の身代わりとして剛が名指しされたのだ。藩の命運を背に、剛は能役者としての才能を開花させていくが、いつしか別の野望を抱いていく……。

 能という芸の神髄を描きながら、その政治的役割をも鮮やかに活写する、まったく新しい時代小説。

(文藝春秋 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    年収1億円の大人気コスプレーヤーえなこが“9年間自分を支えてくれた存在”をたった4文字で表現

  2. 2

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償

  3. 3

    映画「国宝」ブームに水を差す歌舞伎界の醜聞…人間国宝の孫が“極秘妻”に凄絶DV

  4. 4

    “やらかし俳優”吉沢亮にはやはりプロの底力あり 映画「国宝」の演技一発で挽回

  5. 5

    山尾志桜里氏“ヤケクソ立候補”の波紋…まさかの参院選出馬に国民民主党・玉木代表は真っ青

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希 球団内で「不純物認定」は時間の問題?

  2. 7

    フジテレビCM解禁の流れにバラエティー部門が水を差す…番宣での“偽キャスト”暴露に視聴者絶句

  3. 8

    国分太一は“家庭内モラハラ夫”だった?「重大コンプラ違反」中身はっきりせず…別居情報の悲哀

  4. 9

    輸入米3万トン前倒し入札にコメ農家から悲鳴…新米の時期とモロかぶり米価下落の恐れ

  5. 10

    慶大医学部を辞退して東大理Ⅰに進んだ菊川怜の受け身な半生…高校は国内最難関の桜蔭卒