「花の下にて春死なむ」北森鴻著

公開日: 更新日:

「とりあえずビール」というのは、日本の酒席の常套句だが、ひとつには最初はあまり強くない酒から入るというのがあるだろう。事実、日本のビールのほとんどはアルコール度数が5%前後だ。

 ところが、世界にはスコットランドのスネークベノムのように67・5%というとんでもなく度数の高いビールもある。そこまでいかなくとも、ビールの専門店へ行けば10%を超すビールを飲むことができる。本書の舞台のビアバーには度数の異なる4種類のビールが用意されていて、客の気分によって、マスターが出すビールを替えていく。

【あらすじ】三軒茶屋の奥まった路地にあるビアバー「香菜里屋」。10人ほどが座れるL字形カウンターと2人用の小卓が2脚という小さな店で、全体が深い色調の茶で統一されている。

 マスターの工藤哲也は年齢不詳で、いつもヨークシャーテリアの刺繍の入ったワインレッドのエプロンをしている。特技は並外れた推理力で、客の断片的な話から見事、真実を解き明かしていく。

 フリーライターの飯島七緒は、急死した年長の俳句仲間の片岡草魚が、本籍も定かでなく名前も偽名らしいことを知る。残された手がかりを頼りに草魚の故郷とおぼしき町、山口県長府を訪れる。そこで草魚の秘められた過去を知ることになるのだが、工藤は、草魚の死んだ部屋の窓辺に季節外れの桜が咲いていたことから、まったく別の事件との関連を示唆する……というのが表題作。

 全6編の連作短編で、第6話は表題作の草魚にまつわる過去が再び取り上げられて連環をなすという仕立てだ。シリーズ全4作の1作目で、安楽椅子探偵の工藤マスターの過去や店の名の由来は4作目で明かされる。 <石>

(双葉社 583円+税)



【連載】酒をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  4. 4

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  5. 5

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  1. 6

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  2. 7

    豊作だった秋ドラマ!「続編」を期待したい6作 「ザ・トラベルナース」はドクターXに続く看板になる

  3. 8

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  4. 9

    悠仁さまは東大農学部第1次選考合格者の中にいるのか? 筑波大を受験した様子は確認されず…

  5. 10

    中山美穂さんが「愛し愛された」理由…和田アキ子、田原俊彦、芸能リポーターら数々証言