「麦酒の家の冒険」西澤保彦著

公開日: 更新日:

 たとえば、目の前にたっぷりの缶ビールとキンキンに冷えたジョッキがあったとする。しかもさんざん歩き回ってのどが渇いている。しかし、そこは見ず知らずの他人の家で、住んでいる気配がない。金さえ払えば飲んでもいいのではないか……酒飲みであればその誘惑に抗するのは困難だろう。本書は、まさにそんな立場に立たされた4人の酒飲みの話である。

【あらすじ】「牛が見たい――」というボアン先輩の一言でR高原で過ごすことになった、タック、タカチ、ウサコの男女4人組。牛見物が終わっての帰り、ガス欠を起こした一行は、夜の山中をさまよい歩くことに。

 歩き疲れて途方に暮れたところに現れたのが一軒の山荘。人の気配はない。仕方なくガラス窓を割って中へ入る。新しく広々としたリビングにもキッチンにも家具は一切なく、あるのは1台のベッドだけ。2階も同様に空っぽだが、ウオークインクローゼットを開けてみると、古ぼけた冷蔵庫が隠されていて、中にはヱビスのロング缶が96本と凍ったビールジョッキ13個が入っていた。

 首をかしげるばかりの4人だが、疲れ切って思考停止に陥った頭にはビールを飲むことしかない。人心地がついたところで改めてこのビールの謎が気になってくる。4人はそれぞれ仮説を立てていくが、結論は出ず。翌朝山荘を出てようやく帰途につくと、山を下りたところに似たような山荘があり、試しに中をのぞくと、ここもやはり家具はなく冷蔵庫にビールとジョッキがあるだけ。しかもビールは95本と1本少ない……。

【読みどころ】酒を飲みながらあれこれ推論をしていく、典型的なアームチェアディテクティブ。グラス片手に著者の巧みな仕掛けに酔うことができる。 <石>

(講談社 640円+税)



【連載】酒をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    【原田真二と秋元康】が10歳上の沢田研二に提供した『ノンポリシー』のこと

  3. 3

    カーリング女子フォルティウスのミラノ五輪表彰台は23歳リザーブ小林未奈の「夜活」次第

  4. 4

    3度目の日本記録更新 マラソン大迫傑は目的と手段が明確で“分かりやすい”から面白い

  5. 5

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  1. 6

    福山雅治&稲葉浩志の“新ラブソング”がクリスマス定番曲に殴り込み! 名曲「クリスマス・イブ」などに迫るか

  2. 7

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  3. 8

    松岡昌宏も日テレに"反撃"…すでに元TOKIO不在の『ザ!鉄腕!DASH!!』がそれでも番組を打ち切れなかった事情

  4. 9

    年末年始はウッチャンナンチャンのかつての人気番組が放送…“復活特番”はどんなタイミングで決まるの?

  5. 10

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった