「太鼓叩きはなぜ笑う」鮎川哲也著

公開日: 更新日:

 バーテンダーの仕事のひとつに、客との距離感をうまくとるというのがある。あまり出過ぎず、といって放っておきもせず、客が何か話したがっていそうなら、促して話に耳を傾ける。そのためには、カウンターの中からその日の客の気分を一目で見抜き、それに応じた対応をする洞察力が必要だ。そんな職業だからだろうか、バーテンダーが探偵役を果たすミステリーがけっこうある。本書はその草分け的存在といっていいだろう。

【あらすじ】時代は1970年代初頭。西銀座にある会員制のバー「三番館」のダルマみたいに太った、ヒゲそりあとが青々としたバーテンダーは、大学教授と太刀打ちできるほどの博識。ただしカクテルをこしらえるのは下手という変わり種だ。

 私立探偵の「わたし」は店の常連で、捜査の仕事が入っているときにはアルコールの強いものは避けて、もっぱらバイオレットフィズを飲むことにしている。今回の依頼は、殺人の疑いを掛けられた被告の無実の立証。被告は、犯行時刻には鎌倉にいて、屋根に青いペンキを塗っているのを見たというのだが、どう調べてもそういう家はなかった。行き詰まった探偵は、三番館へ行きバーテンダーに相談する。するとバーテンダーは言う。もともと青い屋根を別の色に塗っていたとは考えられないかと……。

【読みどころ】以後、探偵は事件の現場に足を運び、関係者の話を聞くという「足」の役目を果たし、捜査が暗礁に乗り上げたところで「頭」たるマスターの登場というパターンが出来上がる。昔ながらの現場百回の元刑事とどんな難問もたちどころに解き明かす安楽椅子探偵というコンビのこのシリーズは、計6冊、36編書かれたが、本書はシリーズ1冊目。 <石>

(東京創元社 900円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  2. 2

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  3. 3

    「おこめ券」迫られる軌道修正…自治体首長から強烈批判、鈴木農相の地元山形も「NO」突き付け

  4. 4

    査定担当から浴びせられた辛辣な低評価の数々…球団はオレを必要としているのかと疑念を抱くようになった

  5. 5

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  1. 6

    12月でも被害・出没続々…クマが冬眠できない事情と、する必要がなくなった理由

  2. 7

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  3. 8

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  4. 9

    黄川田地方創生相が高市政権の“弱点”に急浮上…予算委でグダグダ答弁連発、突如ニヤつく超KYぶり

  5. 10

    2025年のヒロイン今田美桜&河合優実の「あんぱん」人気コンビに暗雲…来年の活躍危惧の見通しも