「狼の義」林新、堀川惠子著

公開日: 更新日:

 明治維新後、日本の政治はどう動いたのか。なぜ日中戦争を回避できず、ひいては国が焦土と化すほどの惨禍を招いてしまったのか。日本人が断片的にしか知らない近現代史の複雑な実相を、多くの資料から読み解き、絡み合う何本もの糸を縦横に組み合わせ、あえて小説形式で織り上げた力作評伝。

 主人公は、この時代を孤狼のごとく駆け抜け、軍の凶弾に倒れた政治家、犬養毅(号は木堂)。

 貧しかった学生時代、文筆の才を見込まれて新聞記者となり、西南戦争の戦場を目に焼き付けた。福沢諭吉の薫陶を受け、やがてその導きで政界へ。利権まみれの藩閥体制に抗し、憲政擁護を掲げ、闘いの日々が始まった。

 その犬養を生涯にわたって支え続けた男がいる。古島一雄。新聞業界屈指の名物記者といわれ、政界入りした後は、「政界の野人」「犬養の懐刀」などと称された人物である。

 この2人は、揺れ動く政界の真っただ中にいた。伊藤博文が制度設計した立憲体制は難産で、なかなか軌道に乗らない。初の言論の府「議会」は大混乱。国内に民主主義が根づかないまま、対外的には帝国主義列強として振る舞うようになっていく。

「憲政の神」と呼ばれた犬養だが、志半ばで一度は政治を離れ、八ケ岳の麓で隠居生活に入った。しかし、時代はこの男を放っておかなかった。76歳で総理大臣に就任し、翌昭和7年5月15日に暗殺されるまでの半年間を、新資料に基づき、詳述している。暗殺の2週間前に放送されたラジオ演説の音声資料からは、草稿にない痛烈な軍部批判をしていたことがわかった。最期の会話は「話せばわかる」「問答無用」ではなかった……。犬養亡き後、ようやく芽吹いた政党政治は根を張る前に踏みにじられ、日中戦争に突入していく。

 政党政治が混迷する今、この評伝は自国の近現代史を学ぶ絶好の入門書になるだろう。

(KADOKAWA 1900円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    紳助暴行事件 衝撃の一部始終(2)

  2. 2

    紳助暴行事件 衝撃の一部始終(1)

  3. 3

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  4. 4

    2026年は米価が値頃になるのか? 昨年末には最高値更新も業界には先安感漂う

  5. 5

    「日吉湯」は大満足のスーパー銭湯風銭湯 15台分の駐車場も完備

  1. 6

    紳助暴行事件 衝撃の一部始終(3)

  2. 7

    NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」への“期待と不安”…第1話を見た時代劇研究家が語る

  3. 8

    “脇役中の脇役”仲野太賀に秀吉を補佐する弟・秀長はまさにハマリ役 NHK大河「豊臣兄弟!」スタート

  4. 9

    青学大・原晋監督も警戒! 早大総長の「2億円の置き土産」は来年開花するか

  5. 10

    矢沢永吉と郷ひろみ…NHK紅白で浮き彫りになった“待遇格差”の現実 視聴率35%回復も問題山積