「すべては救済のために」デニ・ムクウェゲ、ベッティル・オーケルンド著 加藤かおり訳

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 デニ・ムクウェゲは、昨年ノーベル平和賞を受賞したコンゴ民主共和国(旧ザイール)の産婦人科医。生まれ故郷に病院を建て、蔓延する凄惨な性暴力の撲滅と、被害女性の治療、救済に取り組んできた。

 1955年、コンゴ民主共和国東部のブガブで、牧師の息子に生まれた。隣国ブルンジで医学を学び、山村の病院で働いていたとき、僻地での過酷な出産の実態を目の当たりにして、産婦人科医を志す。フランス留学を経て、女性の苦しみを取り除くために懸命に働いた。

 だが、1960年に独立後、祖国では内紛が続き、暴力がはびこっていた。産婦人科医はその凄惨な現実に直面する。

 手術室で待ち受けているのは、女性の下腹部のむごたらしい傷。彼女たちの被害はレイプにとどまらず、女性器が徹底的に傷つけられていた。

 天然資源に恵まれた東部コンゴは、民兵組織と武装勢力に蹂躙されていた。村や集落を破壊するための最強の武器は、女性への性暴力だった。

 被害者と家族を痛めつけ、脅し、屈辱を与える。銃も戦車も必要ない。最も経済的な武器でもあった。

 被害の惨状を政府に訴えても黙殺される。国連総会で演説するなど、国際社会に訴える活動は命の危険を伴った。自宅が襲撃され、九死に一生を得たこともある。しかし、決して逃げなかった。敬虔なクリスチャンであるムクウェゲは、死を免れたのは神がそうお望みになったからだと受け止めた。

 1999年、ブガブにパンジ病院を設立して以来、4万人を超える性暴力被害者の治療に当たってきた。その活動は国際的に高い評価を受けながら、自国では相変わらず危険にさらされている。それでも、被害女性が一人でもいる限り、「私は怒りの声を上げ続けるつもりだ」と語る。

 国家とは、権力とは、自由とは、人間の尊厳とは……。多くのことを考えさせる感動の伝記。

(あすなろ書房 1600円+税)

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