「模範郷」リービ英雄著
台湾は6歳から10歳までを過ごした「ぼく」の故郷だった。一家が暮らした家は、台中の「模範郷」という場所にあった。 1945年までその町の住人は日本人で、模範郷に並ぶ家は「日本人建的」家なのだと、出入りする国民党の人から聞いた。離れてから一度も台湾を訪れたことはないぼくは、記憶の中の風景を求め、大陸の奥地、河南省に通い続ける。
震災と母の死が重なり書くことができなくなったぼくは、台湾に住む日本人から、半世紀ぶりに「ふるさと」で、かつて住んでいた家を見つけに行かないかと誘われ、複雑な動揺を覚える。(表題作)
後に万葉集を英訳し、日本語で小説を書くことになる作家自身の原風景をたどる作品集。第68回読売文学賞受賞作。
(集英社 540円+税)