「さよならの儀式」宮部みゆき著

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 著者初のSF作品集。冒頭の「母の法律」は虐待を受ける子供とその親を保護する「マザー法」が施行されている世界が舞台。心優しい養父母のもとで幸せに暮らしていた二葉は16歳で養母を亡くす。マザー法の規定により、ひとり親になった未成年者は養護ホームへ戻され、心機一転、将来の夢に向かって勉学に励んでいた。

 そこへ二葉の実母が生きているという情報がもたらされる。法によって以前の記憶を消去されたはずの二葉の心は妙にあわ立っていく……。

 続く「戦闘員」は、生物のように増減を繰り返す監視カメラの秘密を知った老人の孤独な闘いを描く。表題作は、長年一緒に暮らしてきた人型ロボットに愛着を示す娘がロボットに最後の別れを告げる話で、彼女に皮肉な目を向ける技師の視点から描かれる。その他、45歳の自分の前にタイムスリップした中学生の自分が現れる「わたしとワタシ」、ある無差別殺傷事件の真相を探る「星に願いを」など全8編を収録。

 いずれも趣向が凝らされ、日常世界からほんの少しずれた独特なSF的世界が展開される。

(河出書房新社 1600円+税)

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