「〈完本〉初ものがたり」宮部みゆき著

公開日: 更新日:

「初物七十五日」。食べると75日寿命が延びるといわれる江戸っ子の好きな初物。4大初物といえば、鰹、鮭、茄子、松茸。初物は高値で取引され、歌舞伎の3世中村歌右衛門などは鰹1本に3両(20万~30万円)もの大金を払って仲間に振る舞ったという。本書は、白魚、鰹、柿といった初物の食材を枕に江戸の町で起こる事件を解決していく捕物帳である。

【あらすじ】回向院裏のしもた屋に住まう茂七は、本所深川一帯をあずかる岡っ引きで、「回向院の旦那」と呼ばれている。手下の下っ引きは、元酒問屋の番頭で45歳になる権三と20歳になったばかりの糸吉の2人。

 ある日、茂七のところに魚屋の角次郎が訪ねてきた。日本橋の呉服屋・伊勢屋の番頭が角次郎の鰹まるまる1本を1000両で売ってくれといってきたが、この法外な申し出にさすがにおじけづき、茂七に調べて欲しいというのだ。

 早速調べてみると、伊勢屋では半年前におみつという娘が亡くなっていて、その少し前に先代のお内儀が亡くなっていた。なんでも今のお内儀と先代のお内儀は折り合いが悪く、始終揉めていたとのこと。角次郎夫妻にはおみつと同じ年頃のおはるという娘がいて……。

【読みどころ】その他、最初、自殺と思われた棒手振り売りのお勢の死に疑問を抱いた茂七が、犯人と思われる男の鉄壁のアリバイを崩したり、神社をねぐらにしていた5人の子どもが毒殺されるという怪事件を見事解決したり、茂七の名探偵ぶりが発揮されるが、最後まで明かされないのが屋台の稲荷寿司屋の親父の正体。地元のやくざもびびる強面の一方、折々に美味を供し茂七の舌を楽しませる謎の男だ。いつか続編での謎解きを期待したい。 <石>

(PHP研究所 762円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?