著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「暗殺者の追跡」(上・下) マーク・グリーニー著 伏見威蕃訳

公開日: 更新日:

 グリーニーはホントにすごい。主人公コート・ジェントリーの乗るジェット機がイギリスの空港で襲撃される冒頭から、スコットランドの古城におけるラストの戦いまで、休む間もなく迫力満点のアクションが続くのである。アクション小説が好きな読者なら、もうたまらない。

 余分な知識は何もいらない。これが、コート・ジェントリーを主人公とするシリーズの第8巻であるとか、そのうちの5巻は第1期で、ずっとCIAに追われていたとか、ただいまは第2期の3巻目で、CIAとは和解しているとか、そういうことも知らなくていい。ここに登場するゾーヤが元SVR将校で、前々作の「暗殺者の飛躍」からの再登場であることや、元上官のザック・ハイタワーとは長い知り合いであることも、全然知らなくてかまわない。

 CIAとの対立から和解、というように、ゆるやかに連なっているけれど、厳密に続いているシリーズではないので、どこから読んでもいいのだ。それよりは細部を楽しまれたい。これほど迫力あるアクションシーンを読むことができるとは、まったく信じられない。シリーズ第1作が翻訳されたとき、「冒険小説の神が21世紀に降臨した」と書いたものだが、そのパワーがいまだに持続しているから素晴らしい。

 クレイグ・トーマスなどの冒険小説を愛読していた年配の読者には特におすすめだ。

(早川書房 各880円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  2. 2

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  3. 3

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  4. 4

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  5. 5

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  1. 6

    日本人選手で初めてサングラスとリストバンドを着用した、陰のファッションリーダー

  2. 7

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方

  3. 8

    「核兵器保有すべき」放言の高市首相側近は何者なのか? 官房長官は火消しに躍起も辞任は不可避

  4. 9

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  5. 10

    中日からFA宣言した交渉の一部始終 2001年オフは「残留」と「移籍」で揺れる毎日を過ごした