著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「から揚げの秘密」石井睦美著

公開日: 更新日:

 食品会社に就職した樋口まりあ(通称ひぐま)を主人公にした連作集のパート2である。前作の「ひぐまのキッチン」も読ませたが、今回も快調だ。

 樋口まりあは社長秘書として採用されるのだが、その重要な仕事のひとつに、社長に面会に来る客に、必要に応じて昼食を作って出すということがある。

 食品会社という性格上、社内に大きなキッチンがあり(総勢30人が余裕で入れるほど大きいので、年に2度の社員慰労会は、ここで行われる)、シンク横には大きな鉄板まである。

 ただし、社長に面会に来る客は、それぞれの道のプロでもあるので、提供するのが何でもいいというわけではない。少しは感心してもらいたいので、そのたびにまりあは頭を痛めることになる。

 たとえば、第4話「冷し葛うどんにあったか赤飯」は、日本一の葛の産地である鹿児島で葛粉を作っている会社の人がやってくるので昼食を用意する話だが、意外な展開になるのがキモ。食というものがその人の人生と切り離せないものであることを示す挿話だが、目先だけの話で終わらず、こういう広がりを持つのもこの連作集の強みといっていい。お仕事小説は花盛りで、特に「食」に関する小説は多いけれど、これは強力な一冊だ。

 シリーズ第2作とはいっても、内容的に続いているわけではないので、安心して手に取られたい。

 (中央公論新社 680円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  2. 2

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  3. 3

    佳子さま31歳の誕生日直前に飛び出した“婚約報道” 結婚を巡る「葛藤」の中身

  4. 4

    国分太一「人権救済申し立て」“却下”でテレビ復帰は絶望的に…「松岡のちゃんねる」に一縷の望みも険しすぎる今後

  5. 5

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  1. 6

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  2. 7

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  3. 8

    清原和博 夜の「ご乱行」3連発(00年~05年)…キャンプ中の夜遊び、女遊び、無断外泊は恒例行事だった

  4. 9

    「嵐」紅白出演ナシ&“解散ライブに暗雲”でもビクともしない「余裕のメンバー」はこの人だ!

  5. 10

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢