「ペンギン大図鑑」デイビッド・サロモン著、出原速夫、菱沼裕子訳

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 鳥なのに、空を飛ぶことはできない。しかし、泳ぎは達者。その上、幼児のようによちよち歩く姿に人間はすっかり心を奪われて、水族館では不動の人気を誇るペンギン。本書の著者も、そんなペンギンに魅了されたひとり。

 自宅のあるアメリカ・ダラスから南半球の各生息地に2年間通いつめ、撮り下ろした野生のペンギン全17種のかわいらしい写真と、その生態などありとあらゆる情報を網羅したペンギン図鑑の決定版だ。

 トップバッターは、お馴染みのエンペラーペンギンだ。その繁殖コロニーは、南極大陸周辺の氷の上にあり、船が接岸できる地点から数十キロも続く氷原で海から隔てられている。著者がヘリコプターでスノーヒル島にあるコロニー近くに降り立ち、徒歩で向かうと、数え切れぬほどのエンペラーペンギンが待ち構えていた。

 これまで出合った動物の中で最も気品と優しさにあふれていたという彼らは、友好的な態度で著者を出迎え、近づいてきては物珍しそうに顔をのぞき込んだり、フリッパー(翼)で体に触れてきたりしたという。彼らのヒナも、その愛らしさは言葉では言い表せぬほどで、地球上で一番かわいいとさえ絶賛(写真①)。

 エンペラーペンギンは地球上で最も寒く、最も孤立した場所にコロニーをつくる、硬く冷たい氷の上で繁殖する鳥は彼らだけ。ゆえにその生存と生活は、氷の状態と海水を凍らせる気温に依存している。

 多くのペンギンが繁殖期間は長い絶食期を耐えなければならないが、エンペラーペンギンの絶食期は特に長く、最長で115日間にも及ぶ。その間、オスは41%も体重が減少するという。

 そんな過酷な環境を生き抜くための、群れることによって寒さをしのぐ「ハドル」と呼ばれる仕組みや、生まれてから40日以上が過ぎたヒナが他のヒナたちとつくる「クレイシ」(共同保育所)など、興味深い独特の行動・生態も詳述。

 一方、「キガラシペンギン」(写真②)は、飼育環境に適応できず、人にも慣れないために動物園や水族館では見ることができない。黒猫のような金色の目や、頭部で弧を描く黄色の羽毛が、優雅で気品のあるたたずまいによく似合っている。

 その生息数はわずか5000~6000羽。ペンギンらしからぬ孤独を好む性格で、著者はその孤高の姿と寂しげな表情に「いずれ訪れる種の絶滅という運命をすでに受け入れてしまっているのではないか」とさえ感じる。

 その他、人為的につくられたキャラクターにしか見えない「アデリーペンギン」(写真③)や「ヒゲペンギン」、黄色の冠羽が印象的な「シュレーターペンギン」や「マカロニペンギン」など、6属17種どのペンギンも厳しい自然の中で生きていることを感じさせないほど愛くるしい。

 7000万年という途方もない歳月、大量絶滅など、何度も危機を乗り越えて種を守り続けてきたペンギンだが、これまで以上の危機が迫っている。その厳しい試練をペンギンたちに課しているのは人間だ。そのことに思いが至ると、著者ならずとも、あのキガラシペンギンの姿から目が離せなくなる。

(河出書房新社 2900円+税)

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