著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「翡翠城市」フォンダ・リー著 大谷真弓訳

公開日: 更新日:

 カッコいい。そんな感想がぴったりの小説である。アクションがひたすらカッコいいのだ。ラストの凄絶なアクションまで、一気に突き抜けるから素晴らしい。

 世界幻想文学大賞受賞、と帯にあり、さらにSF叢書の一冊なので、そういうのはどうも、と手控える方もいるかもしれないが、わかりやすく言うならば、船戸与一著「山猫の夏」+香港ギャング映画、なのだ。そう考えればいい。

 対立する2つのグループが牛耳っている街が舞台。物語はそのひとつ、コール家を中心に進んでいくが、冷静な長男ラン、ホットな次男ヒロ、コール家から離れたい長女シェイ。この3人がそれぞれの立場で生きる様子が活写され、そこにさまざまな脇役たちが絡んできて、緊迫感ある物語が展開する。

 SF的な設定にも少しだけ触れておけば、島の貴重な天然資源である翡翠のエネルギーを制御することで、人智を超えた能力を手に入れることができる、との設定がキモ。つまり翡翠を身につければ、ある種の超能力を手に入れられるのである。これは、その翡翠戦士たちの戦いの物語でもある。

 秀逸な人物造形、テンポのいい展開と、たたみかけるアクション。そのすべてが素晴らしいが、圧巻はコール家から離れていた長女シェイが、あることをきっかけにふたたび翡翠を身につけるシーン。彼女が戦士に復活するシーンだが、ここで感動が込み上げてくる。

(早川書房 2500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  2. 2

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  3. 3

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  4. 4

    今なら炎上だけじゃ収まらない…星野監督は正捕手・中村武志さんを日常的にボコボコに

  5. 5

    「高市早苗総裁」爆誕なら自民党は下野の可能性も…“党総裁=首相”とはならないワケ

  1. 6

    志村けんさん急逝から5年、更地になった豪邸の記憶…いしのようことの“逢瀬の日々”

  2. 7

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  3. 8

    広陵辞退騒動だけじゃない!「監督が子供を血だらけに」…熱戦の裏で飛び交った“怪文書”

  4. 9

    広陵野球部は“廃部”へ一直線…加害生徒が被害生徒側を名誉棄損で告訴の異常事態

  5. 10

    (3)阪神チーム改革のキモは「脱岡田」にあり…前監督との“暗闘”は就任直後に始まった