著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ダイエットの神様」南綾子著

公開日: 更新日:

 帯に大きく、「女よ、男なんかのために痩せるな」というコピーがついていて、それが目を引く。その下に小さく、「あなたの背中を押すハイカロリー小説」とある。うまいコピーだ。ダイエット小説であるのに、痩せるな、ハイカロリーを摂取せよ、というんだから、ぶっ飛んでいる。

 舞台は、ダイエット界では神様といわれている伯母が経営するダイエット教室で、一度退会した会員を再度入会させれば5万円、という報酬につられて土肥恵太がアルバイトを始める、というのがメインストーリー。だからもちろん、ダイエットに苦しむ女性たちの奮闘ぶりが描かれるのだが、この連作長編の美点は、そのうちにダイエットそのものを否定し始めることだ。

 たとえば、土肥恵太の同僚である小百合(ちなみに、彼女は巨漢である)の言を聞かれたい。彼女はこう言うのだ。

「あたしは自分の意志で食べる。その自分の選択の積み重ねでいまのこの体型がある。それを認めるよ。あたしはデブ。このデブの体型は、あたしが作った。年齢でも環境のせいでもない。でもいい。それが自分の足で立つってことだよ」

 この小百合の強烈な個性が本書のキモ。スリムな女性がいいと思っている三十路の童貞土肥恵太を笑うように、小百合は邁進するのだ。痩せれば本当に幸せになれるのか、という疑問を読者に突きつけてくる小説だ。

(双葉社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?