著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「芽吹長屋仕合せ帖日照雨」志川節子著

公開日: 更新日:

 志川節子は2003年にオール読物新人賞を受賞してデビューした作家だが、第1作品集「手のひら、ひらひら」が上梓されたのは2009年であった。その後も、10年間で6作しか上梓していないというのは、現代では寡作作家に入るだろう。志川節子はそういう作家である。だから、久々の新作がうれしい。

 本書は「結び屋おえん」を主人公とするシリーズの第2作。ひょんなことから男女の仲をとりもって祝儀をもらったのをきっかけに、おえんは「ご縁とりもちます」の木札を戸口にかけているが、「ご祝儀だけで食べていけるほど世の中は甘かないよ。結び屋もいいけど、これまで通り、針仕事に身を入れることだね」と隣人のおさきの言う通り、これを専門職にするつもりはない。

 それにもうひとつ、このヒロインは男女の仲をとりもつことだけを考えているわけではない。たとえば、悪事に巻き込まれた笹太郎の奉公先を探す一編「神かけて」を読まれたい。おえんはだまされた側の人間であるというのに、笹太郎の身の上話を聞くと、我慢できずに奉公先を探しまわる。根っからの世話好きなのである。

 今回は、10年間も行方不明の長男が帰ってくるという新展開がある。背中に3つ、ほくろが並んでいるのは間違いなく長男だ。しかし、おえんはなんとなく釈然としない――と話は進んでいくが、この先を知りたい方は本書を当たられたい。 (新潮社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  2. 2

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 5

    広島・大瀬良は仰天「教えていいって言ってない!」…巨人・戸郷との“球種交換”まさかの顛末

  1. 6

    広島新井監督を悩ます小園海斗のジレンマ…打撃がいいから外せない。でも守るところがない

  2. 7

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  3. 8

    令和ロマンくるまは契約解除、ダウンタウンは配信開始…吉本興業の“二枚舌”に批判殺到

  4. 9

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  5. 10

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か