著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「55」ジェイムズ・デラーギー著 田畑あや子訳

公開日: 更新日:

 54人を殺したシリアルキラーから逃げてきた、と男が駆け込んでくる。おまえは55人目だ、と脅されたというのだ。オーストラリア西部の小さな警察署を預かる巡査部長チャンドラーは緊張して応対するが、事が複雑になるのは、その逃げてきた男ゲイブリエルが語るシリアルキラーの人相にぴったりの男ヒースが現れると、自分こそ脅されたほうだと彼が証言するからである。

 ヒースによれば、ゲイブリエルがその殺人鬼で、自分は彼から逃げてきた、というのだ。はたしてどちらが殺人鬼なのか――と、この不思議な話が始まっていくが、ポイントは2つ。まずは、チャンドラーの若き日の友で、その後は絶縁しているミッチが上司としてやってくると、威張り散らすことだ。出世ごりごり男になったミッチとの対立は常套的に思えるが、この先がいい。このミッチの像が次第に微妙に変化していくのだ。

 もうひとつはラストだ。こればかりはネタばらしになってしまうので詳しく紹介できないが、ここでは「カタルシスの拒否」と書いておく。えっ、ここで終わるのかよ、と言いたくなる読者もいるかもしれないが、読み終えるとこれがじわじわと効いてくる。

 著者は北アイルランド出身でイギリス在住。本書がデビュー作だが、ぐいぐいと読ませる力強さがいい。まだ粗削りであることは否めないが、今後に期待したい。

(早川書房 1160円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    「高市早苗首相」誕生睨み復権狙い…旧安倍派幹部“オレがオレが”の露出増で主導権争いの醜悪

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  1. 6

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  2. 7

    パナソニックHDが1万人削減へ…営業利益18%増4265億円の黒字でもリストラ急ぐ理由

  3. 8

    ドジャース大谷翔平が3年連続本塁打王と引き換えに更新しそうな「自己ワースト記録」

  4. 9

    デマと誹謗中傷で混乱続く兵庫県政…記者が斎藤元彦県知事に「職員、県議が萎縮」と異例の訴え

  5. 10

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず