著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「バンコクドリーム」室橋裕和著

公開日: 更新日:

 副題に、「Gダイアリー」編集部青春記、とある。寡聞にして知らなかったが、Gダイアリーとは伝説の雑誌だったらしい。タイを中心にした歓楽街のガイドであり、旅行雑誌であり、アジアのルポルタージュ誌でもあったという。エロ情報が満載である一方、戦火のアフガンに潜入するシリアスな記事もあるというめちゃくちゃな雑誌で、その熱気が多くの読者を引きつけたようだ。

 その雑誌に記事を書いたこともある高野秀行は「本書はアジアで最もお下劣にして純情な魂の記録である」と推薦の辞を寄せている。1999年に創刊して紙版が休刊する2016年までの内容紹介が巻末に付いているのでそれを見ると、この雑誌の熱気あふれる猥雑なエネルギーが伝わってくる。

 この雑誌に出入りしていた個性豊かな多くの奇人たちについては本書を読んでいただくとして、興味深いのはラストだ。タクシン派と反タクシン派の対立が激化することで歓楽街のともしびが消え、一時期広告が入らなくなったという不幸はあったにせよ、これだけ熱気あふれる雑誌でも結局は続かなかったのである(ウェブサイトは継続中)。それは「Gダイアリー」という雑誌の特殊性や事情とは関係がなく、雑誌としてメディアが役割を終えつつあることを語ってはいないだろうか。つまり、ここにあるのはとても特殊な雑誌の歴史ではあるけれど、語られているのは雑誌というものの挽歌なのである。

(イースト・プレス 1700円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景

  5. 5

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  3. 8

    三谷幸喜がスポーツ強豪校だった世田谷学園を選んだワケ 4年前に理系コースを新設した進学校

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋