著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「キッドの運命」中島京子著

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 近未来小説である。原発が2度事故を起こし、特に首都の近くで起きたために、首都が福岡に代わった時代が舞台。とはいっても、その背景には深く立ち入らない。そういう時代に人々はどうやって生きているのか、という姿を連作で描くのがメインだ。

 たとえば、「種の名前」という短編を読まれたい。田舎に住む祖母の家で夏休みを過ごすことになった14歳の少女ミラを描く作品だが、老女たちが自分で作った野菜を持ち寄って、わいわいがやがやと食事をする「会合」の光景が残り続ける。彼女たちは、野菜の種から栽培までをすべて独占する大企業に隠れて、ひそかに栽培しているのだ。バレると莫大な損害賠償を請求されるから、秘密ね、と祖母は言うのだが、友達にも? とミラが尋ねると「親友ならいいんじゃない? こっそりなら」と言うから素晴らしい。自由に生きている「秘密結社」なのだ。

「ふたたび自然に戻るとき」もいい。こちらは廃虚と化したマンションに住む老人の「ジーサン」と、ハシブトカラスの「カカ」の交流を描く短編だが、トリはヒトの言葉を話すというのが前提になっているので、ジーサンはある日、カカに頼み事をする。その内容はここに書かないでおくが、これも友情のひとつのかたち、あるいは究極のかたちといっていい。こういう余韻たっぷりの、そして緊密な短編が本書に6編収められている。静かに味わっていただきたい。

(集英社 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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