「戦場で書く 火野葦平のふたつの戦場」渡辺考著
1938年、日中戦争に応召され、中国・杭州にいた作家の火野葦平に、出征前に書き上げた「糞尿譚」が芥川賞を受賞したと知らせが届く。陸軍報道班に引き抜かれた火野は、戦地から「麦と兵隊」などの戦う兵士をテーマにした作品を次々と発表。太平洋戦争が終わるまで7年の間に書かれたそれらの作品はベストセラーとなり、火野は国民的な戦争作家となる。
しかし、戦後にその評価は一転、「戦犯」として人々から批判を浴びた。その中には、火野が愛してやまなかった元日本兵もいた。そして終戦から15年後の1960年、火野は自ら命を絶つ。
彼が残した20冊に及ぶ従軍手帳を読み解き、現実の戦場と戦後の日本社会というふたつの戦場で戦った火野の葛藤に迫るドキュメンタリー。
(朝日新聞出版 980円+税)