知りたいのが人の性!裏の顔・正体に迫る本特集
「『嫌われ者』の正体」石戸諭著
どんな人物にも、物事にも、表があれば裏もある。ならば知りたいと思うのが人情だ。そこで今週は、「正体」を暴いたり、論じたりする新書を集めてみた。
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「『嫌われ者』の正体」石戸諭著
熱狂的な支持者がいる一方で、その人を絶対に認めないアンチも存在する──そんな毀誉褒貶がつきまとう有名人たちを取材した人物ルポ。
まず取り上げるのは、テレビのワイドショーのコメンテーターを務める玉川徹氏。自らを「怒りの代理人」と定義する氏がもっとも注目を集めたのは、舌鋒鋭く安倍政権による新型コロナウイルス対策を連日番組で批判していたときだった。反官僚を信条とする玉川氏の怒りの源を探りながら、大衆に迎合せず「生きたコメント」を発することで、「大きな権威と対峙する姿を見せ、人々の心をつかむ」氏の一挙手一投足に称賛と批判が集まるのは、人々がポピュリスト的メディア人に魅了されているからだと分析する。
ほかにも、吉村洋文氏や山本太郎氏、西野亮廣氏、そしてガーシー氏など、メディアの寵児たちを取材し、彼らをもてはやし・批判する日本社会の病理を浮き彫りにする。 (新潮社 1056円)
「関西人の正体<増補版>」井上章一著
「関西人の正体<増補版>」井上章一著
生まれも育ちも京都の著者は、日常会話はもちろん京都弁。関西に誇りを持っているから標準語に劣等感を抱くこともない。しかし、ある日、東京から移住してきた知人から息子が学校できたない言葉を覚えて困っていると言われる。
彼女が言うきたない言葉とは関西弁のこと。自分がしゃべっているのはきたない言葉なのかと考え込む。それだけではない。テレビ出演の時は関西弁をやめたほうがいいと指摘され、地元の人間でもプライドをなくし始めていると嘆く。追い打ちをかけるようにNHKが一日中大阪弁で放送するラジオ番組を企画。標準語を国中に刷り込んできたNHKが関西弁を擁護するようなことを始めたと知り、関西弁が没落の道を歩み始めていることに気づく。
関西弁に始まり、俗悪で猥雑で下卑ているという偏見がまかり通っている大阪の正体、大阪が食い倒れを自称するのはなぜかなど。時に下ネタもはさみ、時に歴史的背景を真面目に探り、関西と関西人を論じるエッセー。 (朝日新聞出版 990円)
「裁判官の正体」井上薫著
「裁判官の正体」井上薫著
世の多くの人は死刑判決まで下せる裁判官を神聖視するが、元裁判官である著者は、裁判官は皆、凡人、俗人だと断言する。
再審無罪が確定した袴田さんの裁判でも、最高裁の裁判官5人全員の一致した結論として、袴田さんを犯人としており、最高裁の裁判官でさえこのありさまだと批判する。
そんな知っているようで知らない裁判官のリアルを明かしたお仕事本。
裁判官の仕事で、大きなウエートを占めるのが大量の記録を読むこと。その上で判決を起案し、判決文を書くのがまた大仕事で、自宅に持ち帰って仕事をすることも当たり前。なのに残業代はない。ゆえに民事の場合は、判決を書かなくて済む和解に持ち込みたいと考える裁判官は多いという。判決を書くのが滞り、当事者に怒鳴り込まれる裁判官もいる。
令状を発布するための夜間の泊まり込み業務や任期10年で自動的に資格がなくなるので再任が必要だという制度、さらに収入まで、裁判官とその仕事を丸ごと解説。 (中央公論新社 990円)
「日本一ややこしい京都人と沖縄人の腹の内」仲村清司著
「日本一ややこしい京都人と沖縄人の腹の内」仲村清司著
沖縄と京都を行き来する「同時二重通勤型生活」を送る著者によると、文化や歴史が全く異なるはずなのに、京都と沖縄は「似ている!」「つながっている!」。京都人と沖縄人の気質には共通点が「ありすぎる!」という。
第一に、双方とも観光地やリゾート地として人気だが、京都はイケズ(意地の悪いこと)、沖縄は排他的との偏ったイメージがつきまとう。
まずはこのマイナスイメージの真偽について、「京のぶぶ漬け」伝説を例にひもといていく。
その上で、土地が狭く同じ場所に何代も住んでいる京都人は「親しき仲だからこそ礼儀が必要」ということを、強い血縁共同体によって社会が成立している沖縄人は「相手を追い詰めず、自分も追い詰められない」ことを大切にしており、双方とも適度な距離感を保つ大人社会だと説く。
ほかにも、それぞれのローカルフードを例にその同質性を考察するなど、京都と沖縄の遠くて近い関係を多視点から論じる。 (光文社 1034円)